岩手・宮城内陸地震では山の至る所で地滑りや土砂崩れが発生し、栗原市では日本最大規模の地滑りが発生しました。今も「生きた教訓」として残され、自然の脅威を伝えています。
16年前の2008年6月14日午前8時43分。岩手県と宮城県の県境付近を震源とするマグニチュード7.2の大地震が東北地方を襲い、県内では栗原市で最大震度6強を観測しました。震源の深さは8キロメートル。極めて浅い表層部で発生した内陸の直下型地震だったため、強烈な揺れが地域を一変させました。
被害は県北部、特に栗原市の山間部に集中しました。土砂崩れや土石流、また3500カ所もの地点で地滑りが発生し道路が陥没、寸断されて救助も難航。県内では合わせて14人が亡くなり、16年経過した今も4人の行方が分かっていません。
当時の様子を詳細に知ることができる施設が栗原市にあります。
西ノ入菜月アナウンサー
「栗駒山麓ジオパークビジターセンターです。こちらの施設では、当時の被害を再現した模型などが設置されていて、岩手・宮城内陸地震の被害状況を知ることができます。」
栗駒山麓ジオパークの佐藤忠実さんは当時、栗原市役所の職員でした。佐藤さんはその時、大きな被害が出た栗駒文字地区で車に乗っていました。
栗駒山麓ジオパーク推進協議会 佐藤忠実 事務局長
「車を止めてちょっと下を向いていた。そしたらなんか車が揺れたので、誰かが車をゆすっているのかなって前を見たら電柱がメトロノームのように振れていました」
自宅へ戻る途中の道路には直径1メートルほどの岩も落ちてきていたそうです。そうした中、どうにか自宅にたどり着いたといいますが、自然の脅威を身をもって実感したと話します。
栗駒山麓ジオパーク推進協議会 佐藤忠実 事務局長
「沿岸部での地震は経験があるが、山での地震は経験なかったので、規模によってはこのように大きな災害になるんだなってことを肌で感じました」
その山間部で、特に大きな規模で被害を受けた場所が…。
栗駒山麓ジオパーク推進協議会 佐藤忠実 事務局長
「荒砥沢ダム北西部で起きた日本最大の地滑り。これが一番大きな特徴です」
栗原市栗駒地区の荒砥沢ダム付近で発生した「荒砥沢地すべり」。幅900メートルにわたって6700立方メートルの土砂が滑り落ちました。日本最大の地滑りと言われています。
栗駒山麓ジオパーク推進協議会 佐藤忠実 事務局長
「このように普通に山があって樹木があって道路もありました。それが強い揺れで一気に地すべりを起こした」
その「荒砥沢地すべり」の現場は今どんな姿になっているのでしょうか。佐藤さんの案内で向かいました。目に飛び込んできたのは山肌が露わになった当時のままの様子。あまりの規模に圧倒されます。
西ノ入菜月アナウンサー
「下から見ると、本当にすごいですね規模が。元々は一番上のところまで山があった?」
栗駒山麓ジオパーク推進協議会 佐藤忠実 事務局長
「移動していって個々の場所が取り残された部分。隙間ができたんですよね」
当時の状態のまま残されているものは他にも。
栗駒山麓ジオパーク推進協議会 佐藤忠実 事務局長
「あの白いの何かわかります?ガードレールです」
16年前のまま、時が止まったように残された被害当時のものが静かに自然の脅威を訴えかけてきました。この一帯は自然災害の脅威を伝えるため、できるだけそのままの姿で未来に残そうと、地震発生後に安全対策工事を開始。これ以上地滑りを発生させないために、上部の堅い地層を30メートル、およそ40万トンを取り除いて、安定を保つ工事が行われました。実はこの工事完了後間もなく東日本大震災が発生し、栗原市では震度7の地震を観測しましたが、それでもわずか5センチしか地滑りに動きがなかったことが確認され、工事の効果で安定性が保たれていることが証明されました。また、2011年以降、栗原市や東北大学などがレーダーで崖の観測を続けるなど、常に様子を観察しています。こうしたことを踏まえて昨年度から、研究・教育・防災活動の一環であれば高校生以上に限り、国の許可を受けた団体の見学が可能となりました。東北学院大学の宮城豊彦名誉教授は、地震の翌年から対策委員会の座長を務め、見学可能な場所にしようと尽力した一人で、災害の跡を残すことの意味を次のように語りました。
東北学院大学 宮城豊彦 名誉教授(理学博士)
「手を付けない最小限の対策をしてかろうじて動かない状況にある。そこで16年前の出来事が追体験できる。これは時間を超えている。きちんと保全して、足を運んで、実感を持って次の防災を考える。災害は日常ですから。伝えないと災害は人災になる」
過去の災害の「生きた教訓」を伝え続ける人たちの思いは「未来の命を守る」こと。現場を案内してくれた佐藤さんは、内陸での地震がどういうものなのか、この場所で感じて、防災について考えてほしいと話します。
栗駒山麓ジオパーク推進協議会 佐藤忠実 事務局長
「自然災害は私たちが思っているよりも脅威。そのような現象が起きるということを脳裏に焼き付けておくことによって防災意識を高めることができるのではないか」
岩手・宮城内陸地震の発生から14日で16年。荒砥沢の地滑り現場は、当時を知らない人たちにもその災害の大きさを直感的に伝えてくれます。
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