越直美弁護士(本人提供)

 学校で「いじめ重大事態」が発生した際に自治体が設置する第三者委員会を巡り、毎日新聞が全国47都道府県と20政令市にアンケートしたところ、約7割の自治体が財源の確保が課題と答え、国による支援の必要性を訴えた。「いじめ防止対策推進法」の施行からまもなく11年。自治体間の「格差」にかかわらず、全ての子どもを平等に救済するにはどういう仕組みが必要なのか。専門家に聞いた。【鶴見泰寿】

第三者委、適切な報酬の確保も必要

越直美弁護士

 第三者委員会の調査で全ての子どもを救える態勢を確保するには法改正が必要だ。「いじめ防止対策推進法」成立のきっかけで、滋賀県大津市でいじめを苦に男子中学生が自殺した事件の第三者委報告書は「二重三重の救済システム」の重要性を訴えていた。

 同法は調査組織の設置主体は学校か教育委員会とし、再調査が必要な場合は首長となる。だが、いじめ重大事態の疑いが生じた時点で「被害者側」と「学校や教委」との信頼関係は崩れていることが多い。最初から首長による調査を可能とするべきだ。

 また、大津市長の経験を踏まえれば、教委や首長に「やる気」さえあれば数百万円の第三者委の予算は必ず確保できる。しかし、同法への理解が不十分で、学校や教委、自治体が動かないケースもあり得る。法改正で被害者側が国の設置する第三者委にも調査を求められるようにすれば、全ての子どもを平等に救うことができる。

 第三者委で求められるのは「公平・中立性」と「専門性」だ。専門性を備え、教委や学校と関わりのない専門家でなければ再発防止に向けた調査や報告書の作成は難しい。適切な報酬の確保も必要だ。「半分ボランティア」の報酬では、継続して第三者委の委員を引き受ける専門家はいなくなるだろう。

 現状の報酬は各自治体の条例によって時給、日給などがありそれぞれ異なる。全ての第三者委の「公平・中立・専門性」を確保するため、国が日本弁護士連合会などの職能団体と調整し、報酬の基準を国の指針で示すことも考えられる。

阪根健二・鳴門教育大特命教授(本人提供)

国が平等性確保する取り組み必要

阪根健二・鳴門教育大特命教授

 いじめ重大事態の発生は、学校で人権侵害が起きていることを意味する。そのため「疑い」の段階からの調査が義務付けられている。子どもの教育は学校現場だけでなく、社会全体で支えるものだ。自治体間の予算の格差で第三者委の設置に影響が生じることを避けるためには、法改正を視野に平等となる体制作りを目指すべきだ。

 歴史をひもとけば、国から押しつけられた教育の反省から戦後、首長部局から独立して教育委員会が設けられた。しかし、教委には予算権限はない。小さな自治体になれば人材も限られる。

 私はかつて第三者委の委員を何度も務めた。一つの事案で最低半年、長いと2~3年かかることもある。会合が20~30回開かれ、児童や保護者からの聞き取り、報告書の作成もある。中立・公平性の観点からも高い専門性が求められる。一方で学生を育てる大学教授の本業もおろそかにはできない。安易に引き受けるのは難しく、まさに「断腸の思い」で委員の要請を何件も断った。職能団体である弁護士会も同様の事情を抱えていると思う。

 いじめ重大事態と財源を巡る問題は、「国家」と「地方自治」との間に横たわる究極の課題の一つだ。この「ねじれ」をただすためには、国が「人材バンク」のような組織を設けて第三者委の委員を各自治体に派遣したり、財源の一部を国が補助したりして、一定の平等性を確保する取り組みが必要だろう。

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