埼玉県秩父市や小鹿野町など1市4町で構成される秩父医療圏で、夜間休日に入院が必要な救急患者を交代で受け入れる「2次救急輪番制」の維持が難しい状態となっている。現在、秩父市立病院、皆野病院、秩父病院の3病院で実施しているが、秩父病院が「医師確保が困難」として離脱を検討。県などからの医師派遣も望めず、現場から悲鳴が上がっている。【鷲頭彰子】
民間病院への人的支援乏しく
同医療圏では、かつて7病院で輪番制を組んでいたが、徐々に参加病院が減少。2010年に国保町立小鹿野中央病院が離脱して以降は、3病院で対応している。現在の分担は、皆野病院が毎週月曜と水曜を月2回▽秩父病院が水曜を月2回▽市立病院が毎週火、木、金曜。土日は市立病院と皆野病院が交互に担当する。
輪番制維持のために重要なのが外科医などの確保だ。救急では傷口を縫い合わせる縫合や脱臼の処置などが必要な患者も搬送されてくるため、外科系の医師が当直に入る必要がある。関係者は「外科系の医師がいないと輪番に対応できないし、外科系の医師が増えないと輪番制に余裕ができない」と指摘する。
輪番からの離脱を検討する秩父病院の花輪峰夫理事長(76)によると、同病院では24年度から2次救急に当たる非常勤医が出勤できる日数が半減し、輪番の担当日数も縮小せざるを得なくなった。医師確保は年々困難になり、現場を退いていた外科医の花輪理事長が宿直に入ったり、同病院で働いた経験のある開業医に臨時で勤務してもらったりして対応しているという。
花輪理事長は「医療の原点は救急救命にあると思っている。しかし医師確保が難しく、限界だ」と、苦しい胸の内を明かす。他の2病院も状況は厳しく、市立病院は「現在ギリギリで回している状態。これ以上増やすにはドクターの確保が必要だ」。皆野病院は「県から医師は1人も来ないし、県が輪番を手配してくれるわけでもない。しかし地域医療を守るために頑張るしかない」と力を込める。
これに対し、秩父保健所は、地元医師会による休日診療所の開設、在宅当番医制などによる初期救急医療体制の充実を図り、2次救急を担う3病院の負担軽減を図っていると説明する。また、県の奨学金貸与制度を活用したり、県内のへき地診療所・病院での勤務が義務づけられている自治医大出身医師を優先的に秩父地域の公立病院に配置したりと、医師確保に取り組む。
ただ、県の奨学金は特定の公的公立医療機関で9年働けば返済を免除される制度で、輪番の一角を担う民間医療機関で働いても、小児科、産科、救命救急センター以外の医師は免除の対象にならない。県がさいたま市に誘致を進める順天堂大付属病院からの医師派遣にも期待が寄せられるが、この派遣も民間医療機関は対象外だ。
県医療人材課は「公立病院は地域の拠点病院として不採算部門の医療を提供している」と、公立病院を優先する理由を説明する。
秩父消防本部によると、管内の救急出動件数は年々増え23年度は過去最多だった。年間5000件以上のうち7割を3病院が受け入れ、患者たらい回しなどの問題は起きていないという。ただ、担当者は「輪番制が維持できないと、秩父市内から1時間弱かかる熊谷市や毛呂山町などに搬送しなければならない」と危惧する。
昨秋、小学生の息子を連れて休日救急を利用した秩父市の40代男性は「息子以外にも、頭から血を流して野球のユニホームが真っ赤の患者など20人近くが診察を待っており、医師1人で対応していた。息子の処置中にも救急要請があり、医師が『受けるしかないだろう』と看護師に答えるなど、ドラマのような光景だった。秩父だけで解決できる問題ではないように感じる」と話した。
秩父病院の輪番制離脱検討について、秩父保健所は「輪番制の維持は地域医療の体制確保のためにも重要。複数の病院が輪番に入ることは負担軽減においても必要で、協力してもらえるよう調整していく」としている。
救急医療圏 市町村 医療機関
さいたま さいたま市 16
中央 上尾、鴻巣など5市町 9
東部北 久喜、加須など8市町 9
東部南 春日部、越谷など7市町 15
所沢 所沢市、狭山市、入間市 12
朝霞 朝霞、新座など4市 9
坂戸・飯能 坂戸、飯能など7市町 9
川越 川越、ふじみ野など5市町 14
比企 東松山、小川など7市町村 7
川口 川口市 12
戸田・蕨 戸田市、蕨市 4
熊谷・深谷 熊谷、深谷など4市町 9
児玉 本庄、上里など4市町 6
秩父 秩父、小鹿野など5市町 3
※県への取材による
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