「メダカが絶滅危惧種になっていることを皆さんは知っていますか」。小学校の理科室で白衣に身を包み、低音の優しい声で語りかける。子どもたちから「メダカ博士」と呼ばれるこの男性は、北九州市八幡西区の妙見博士(みょうけんひろし)さん(77)。メダカを通じて命の大切さを伝える授業は、開始から10年になる。【成松秋穂】
北九州市立大原(おおばる)小学校(同区)で5月、5年生2クラス計約40人を対象に開かれた出前授業。日本各地に生息する野生のメダカは、水環境の悪化により環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている。そんなメダカを飼うために必要な水や水草の管理、オスとメスの見分け方、周りの環境に合わせて体の色を変える「背地反応」など丁寧な説明に、子どもたちは時折「へえー」と相づちを打ちながら聴き入った。
授業の目玉は、妙見さんが持参したメダカの卵の観察だ。当日朝に受精した卵から受精10日目の卵まで、1日おきに子どもたちが観察できるよう、妙見さんが自宅で毎日採取して準備。子どもたちは、順に顕微鏡をのぞき込み「すごい!」「こっちは目がある!」などと歓声を上げた。
藤原崚賀さん(10)は「顕微鏡で見たメダカはちょっと気持ち悪かったけど、10日間で卵が成長していてすごいと思った」と笑顔で話した。山内哲也校長は「教科書の写真で学ぶのに比べ、子どもたちの目の輝きが全然違う。メダカは学校でも育てているが、受精卵を1日単位で管理することは困難で、出前授業はありがたい」と語った。
企業で化学分野の研究開発に携わっていた妙見さんは、60歳で定年退職後、友人から2匹のメダカを譲り受けた。「1日見ていても飽きない」とその魅力に引き込まれ、繁殖を繰り返して多いときは1000匹を飼育するようになった。出前授業は、スクールヘルパーとして関わっていた小学校で頼まれたのを機に、2014年ごろから始めた。
心臓の手術で入院した23年は授業ができず、この日は約1年ぶりの授業だった。「メダカの命は身近な自然環境問題。小さな命の連鎖を目の当たりにすることで、子どもたちには命の大切さに気づいてもらえたら」。現在は米寿を目標に「メダカ博士」を続けようと意気込んでいる。
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