<Q> 定年が近づき、退職後の健康保険をどうするか悩んでいます。幾つかの方法があり、子どもの扶養に入るという選択肢もあると聞きます。子の扶養に入るとどんなメリットがあるでしょうか。注意点なども知りたいです。

◆子に所得控除、健康保険料もメリット 税理士・中島典子さん

<A> 扶養には、税法上と健康保険についての2種類の意味があります。親が子の扶養に入る場合には、それぞれにメリットや注意点があり、適用される条件も異なるため、該当するかどうかを確認する必要があります。  税法上のメリットとして、扶養する子の側が所得税額や住民税額を計算する際に、一定の所得控除が受けられます。金額は条件によって異なります。例えば所得税では親が70歳未満なら1人につき38万円。70歳以上で同居なら58万円、それ以外なら48万円です。所得税率は課税所得に応じて決まるため、控除額に税率をかけると、どのくらい節税できるかが分かります。入院中は同居と見なされますが、老人ホームなどへの入所は同居と見なされません。  適用されるには、親の所得が48万円以下、つまり給与収入のみだと103万円以下で「生計を一にしている」などの条件があります。「生計を一にする」というのは、お財布が一緒というイメージです。例えば親も子も働いて、お金を出し合って家計をやりくりしているような状態。同居していればお財布は一緒という見方が通例です。  別居していても、例えば故郷に住む両親に仕送りしているような場合も「生計を一にしている」と判断されます。盆と正月にお小遣いを渡しているくらいではなく、常に必要な生活費や治療代などを毎月送っているようなイメージ。義理の親でも扶養に入れることができます。  健康保険では、扶養に入る親の側にメリットがあります。子の扶養に入ると、74歳まで保険料を負担せず保険給付を受けられます。例えば夫の退職時に主婦の妻と2人で子の扶養に入れば、大きなメリットです。75歳以上は後期高齢者医療制度に入り、保険料が必要になります。  健康保険で子の扶養に入れるのは、被保険者である子の収入で暮らす実の親か同居の義理の親です。注意したいのは年収の条件です。130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者は180万円未満)で、同居なら被保険者である子の年収の半分未満(年収以下となるケースも)、別居なら被保険者の仕送り額より少ない必要があります。また健康保険での年収には、年金や給与の他、雇用保険や家賃収入、株の配当金なども含まれます。一方で自宅売却など臨時の収入は健康保険上の年収に含みません。臨時収入がある年は、健康保険の扶養に入っても税法上の扶養を外れる場合があり得ます。  医療費が高額になった際に適用される高額療養費制度との関係は注意が必要です。自己負担限度額が所得によって違い、親に持病があるなどして高額の医療費が必要な場合、親自身が公的医療保険に入った方が金額を抑えられる可能性があります。

<詳しく!>健保は任意継続も選択可能

 会社などを退職した後も、元の健康保険に2年間加入できる任意継続という制度もある。保険料は勤め先による半額負担がなくなり全額を自分で支払う必要があるが、退職時に治療などで健康保険を使っている場合、任意継続をすると引き続き保険給付を受けられる。中島さんは「勤務先によっては、健康保険組合の保険給付が高額の場合もある。給付も含めてどんな形がいいかを考えて判断するといい」と話す。  退職後に国民健康保険(国保)に入る選択肢もある。保険料は、任意継続なら勤務先の総務部門などで、国保なら市区町村のホームページや電話で調べられる。中島さんは「任意継続がお得とか、絶対に国保、などと思い込んで損をするケースもある。自分の場合はどうなのか、よく見きわめて選ぶのが安全」と勧める。(海老名徳馬) <なかじま・のりこ> 中島典子税理士事務所(東京)代表。社会保険労務士やファイナンシャルプランナー(FP)などの資格も持ち、幅広い知識を生かし相談業務や執筆、金融教育活動などに携わる。


鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。