特集は麻酔で痛みを和らげて出産する「無痛分娩」です。年々、ニーズが高まり、去年は国内全体で1割程度が無痛分娩でした。今回、長野市の病院の協力で、無痛分娩に密着。増加の背景などを探ってみました。


■「陣痛きたかも」「がんばれ」

分娩台に乗った出産間近の妊婦。

八木春花さん:
「我慢できます。不思議ですね。外においでーって感じですよね」

通常みられる痛みによるつらさはありません。


八木春花さん:
「(陣痛)きたかも」

助産師:
「がんばれ、そうそう」

「おぎゃー」

八木春花さん:
「痛さもなかったので、とっても感動しました」


女性が選んだのは麻酔で痛みを和らげる、いわゆる「無痛分娩」。

近年、増加傾向で日本産婦人科医会の調査によりますと、2023年は11.6%に上りました。


■不安軽減や体力温存の効果も期待

6月7日―。

長野市の吉田病院。


出産前、最後の検診を受けた八木春花さん(36)。八木さんは第2子を「計画無痛分娩」で出産することにしていました。

あらかじめ日取りを決め、麻酔で痛みを和らげながら陣痛促進剤で分娩を誘発し、出産する方法です。不安軽減や体力温存といった効果も期待できます。

八木春花さん:
「一人目を産むんだ時に(分娩)時間が長くてとっても痛くてつらかったので、無痛を聞いて、友達も何人かやっていて痛くないよと聞くので選びました」


吉田病院が「無痛分娩」に取り組んだのは2019年から。この春まで「経産婦」に限ってきましたが、年々、増えていて2023年は37%にあたる112件が「無痛分娩」でした。

吉田病院・花岡立也院長:
「患者さんからの需要が一番。妻の花岡千佳が大学時代、産科麻酔という部門を専門にやっていたので、無痛分娩の手技には慣れていたというのもあって」


無痛分娩では主に硬膜外鎮痛という麻酔が用いられます。

背骨付近の「硬膜外腔」に管を入れ、麻酔薬を少しずつ流して痛みを和らげる方法です。


吉田病院 麻酔科・花岡千佳医師:
「手術の痛み止め、手術の後の痛み止めとしても使われる方法になりますので、無痛分娩にのみ使う特殊な麻酔方法というわけではありません」


■メリットとデメリットを説明

6月1日、無痛分娩の説明会―。

吉田病院 麻酔科・花岡千佳医師:
「完全に痛みがゼロになるわけじゃありません。痛みは間違いなく緩和するんですけど、ゼロになるわけではなくて最大の痛みの約3分の1以下に抑えていく」

病院では無痛分娩の希望者にメリットとデメリットを考えてもらうため説明会に参加してもらっています。

「痛みが全くなくなるわけではないこと」「麻酔で起こりうる重篤な合併症」なども説明します。

麻酔科・花岡千佳医師:
「無痛分娩の麻酔をただ受けるという受け身ではなくて、患者さん自身が積極的に麻酔について理解してもらうことこそがリスク回避につながる」

費用は通常の費用に加えて8万円かかりますが、(2025年1月出産予定から10万円)希望者が多く、病院では月20人までと枠を設けています。

初めて出産予定:
「痛みに対する恐怖があるのと、出産後の回復が早いという話をよく聞くので」

2人目出産予定:
「(上の子がいて)産後、実家に戻れないというのがあって、産後の回復が早いのと計画的にこの日と決めて進められるので」

初めて出産予定:
「職場の先輩とかも経験したことない痛みだったと聞いてネットでも見ると、いろいろ書いてあって余計怖くなって、無痛分娩のほうがいいかなと」


■東京都は約30% 長野県は1.9%

増加傾向の無痛分娩。ただ都道府県によってばらつきがあり、東京は30%に迫っていますが、長野県はまだ1.9%。

現在、県内で実施している医療機関は吉田病院を含め3つしかありません。(他は信州上田医療センター、浅間総合病院)

実施する医療機関が少ない理由はー。

吉田病院・花岡立也院長
「無痛分娩の経験がある麻酔科の先生というのがやっぱり少ないというのが一つと、無痛分娩をやろうとすると産婦人科の先生が(麻酔を)やらなきゃいけないというので、そこまでちょっと手が回らないというのもある」

一方、大都市圏で多いのは少子化で分娩件数が減る中、ニーズが高まる無痛分娩に取り組まないと、経営が難しくなるという事情もあると言います。


■「無痛分娩」に密着

6月10日―。

冒頭で紹介した八木さん。夫・順根さんに付き添われて入院しました。

いよいよ出産予定日です。

八木春花さん:
「緊張と、あとはどんな感じか分からないのでちょっとドキドキしています。楽しみ」


分娩室に移動。

準備の処置をした後、午前9時前、背中から麻酔の管を入れました。

麻酔科医:
「お背中、何も違和感ないですか?」

八木春花さん:
「ないです」


その後、陣痛促進剤の点滴も開始。

麻酔科医:
「この辺、冷たさどうですか?」

八木春花さん:
「感じない」

麻酔の効き方を確認します。

麻酔科医:
「足が動かないとかは異常なので教えてください」

八木春花さん:
「ちょっとだけ痛かったですけど、安心しました。緊張がほぐれました、よかったです」


八木春花さん:
「いっちゃん」

夫:
「ママだ」

八木春花さん:
「緊張してるの?」

長男の維月ちゃん(4)も出産に立ち会うためやってきました。

八木春花さん:
「お兄ちゃんになるんだよ、なれる?」

長男・維月ちゃん(4):
「うん」


■「痛みは全くない、びっくり」

午後1時過ぎ。

通常なら痛みがあっても不思議ではない頃ですがー。

八木春花さん:
「全然しゃべれる。こんなでいいのかというくらい。痛みは全くない。びっくり」


病院では午後2時台に産まれることが多いということですが、気づけば午後4時。

八木春花さん:
「痛みは下腹部がちょっとズーンと重い感じで痛いんですけど、あとはそうでもない」


■「変化」が訪れる…

午後5時20分ころ、「変化」が訪れました。

八木春花さん:
「ちょっと今、下がってきている感じみたいなので、痛くはないですけど緊張しています。ドキドキ」


別室で待っていた順根さんと維月ちゃんも分娩室へ。

夫・八木順根さん:
「ママ緊張してる、頑張れって」

長男・維月ちゃん:
「がんばって」


八木春花さん:
「(陣痛)きたかも」

助産師:
「がんばれ、そうそう」

麻酔は陣痛が感じられる程度に調整。いきむ合間も会話する余裕があります。


■入院から10時間「おぎゃー」

助産師:
「もう少ししたら自分でも頭触れます」

八木春花さん:
「えっすごい」

助産師:
「触る?」

八木春花さん:
「髪の毛いっぱい?」

助産師:
「髪の毛いっぱい生えてます」

八木春花さん:
「やっぱり。一人目のときもいっぱいだった」

そしてー

「おぎゃー」

入院から10時間。3300グラムの元気な男の赤ちゃんが生まれました。


八木春花さん:
「痛さもなかったのでとっても感動しました。無事に生まれて何よりです」

順根さん:
「感動したし、かわいかったし、元気な産声が聞けてよかった」

長男・維月ちゃん:
「うん」


■出産を取り巻く環境が変化

『おなかを痛めてこそ母親』。

日本では長くそうした価値観が支配的で無痛分娩は欧米ほど普及しませんでした。しかし、少子化や女性の仕事復帰など出産を取り巻く環境が変化し、国内でも徐々に増えてきたといいます。

吉田病院でも当初、抵抗感を持つ助産師もいたそうですが、勉強会を重ね、理解を深めてきました。

吉田病院・中山優 助産師長:
「お産は痛みがつきものだというようなこともあったりして、その辺で抵抗が最初は正直、私もあったかもしれないですけども、どんなお産にもリスクはつきものなので、そこをちゃんと責任を持って勉強して、いいお産ができるようにしてあげたい」


病院は要望が多いこともあり、これまで経産婦に限ってきましたが、この春から、中断していた初産婦の無痛分娩にも取り組んでいます。

初産婦の場合は長引かないよう陣痛にある程度、耐えたところで麻酔するケースが多いそうです。

無痛分娩で初めて出産:
「陣痛も経験できた上で、生まれる瞬間は冷静にわが子の誕生をしっかり見ることができて、やってよかった」

■ニーズ高まる「無痛分娩」

6月14日―。

夫・順根さん:
「お腹すいてたんじゃない?」

出産から4日後、八木さんが退院を迎えました。

八木春花さん:
「(無痛分娩は)最高でした。正直、半信半疑でちょっとでも痛いんじゃないかと思っていたんですけど、やってみて痛くなくて、体力がまだあったので、終わった後もリラックスしながら過ごすことができました。自然分娩も経験してみたかったし、両方経験できてよかったです」


ニーズが高まる無痛分娩。県にも「扱う医療機関を増やしてほしい」などの要望が寄せられているということです。

吉田病院・花岡立也院長:
「手術を受けるときに麻酔をするとかと同じように、あらかじめ痛いってわかっていることに対して麻酔をかける、無痛でやるっていうことは別に不自然なことではないと思いますし、赤ちゃんの育て方、生まれ方に何か違いが出ないってことは分かっていることですので、その点は心配しないで無痛を選択していただければいい」

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