近畿日本鉄道は、ベビーカーや大型荷物を持って利用する乗客が気兼ねなく着席できるスペース「やさしば」を設置した新型車両(8A系)を10月、デビューさせる。新型車両は乗客のさまざまな意見を反映したという。どのような過程を経て、乗客思いの車両設備が誕生したのか。軌跡をたどる。
やさしばは、誰もが快適に気兼ねなく座れる「優(やさ)しい場(ば)所」と、公園の芝生のような柔らかいイメージの「芝(しば)」を掛け合わせて名付けた。
近鉄は新型車両の運行開始を控え、2018年ごろから、どのような設備であれば乗客が快適に過ごせるか、意見を募集するアンケートや大型荷物の持ち込み量などを把握する利用状況の調査を始めた。
19年8月、西大寺車庫(奈良市)で電車内の設備やサービスについて、募集した約40人の男女にヒアリング調査を実施した。その際、普段ベビーカーを使用する人から「座席の前にベビーカーを置くと、通路が狭くなるので申し訳なくなる」といった声が上がったという。また大型荷物を利用する人からは「(車内が)通りづらい」「ドア横のスペースが狭い」という意見が聞かれた。
20年2月には、車両メーカー「近畿車輛」の会議室に、やさしばスペースを1カ所設置した半両ほどの模擬車両を作り、乗客役がスペースをどのように利用するかをモニタリング調査した。その結果、ほとんどのベビーカー使用者がやさしばスペースを利用したという。その後のヒアリング調査で「混雑時に他の乗客の邪魔にならない」などの意見が出たという。
ベビーカーを使わない人から、スペースを設置することで座席数が減ることを心配する意見も出たが、「これまでこのようなスペースはなかったので気遣いを感じる」などと理解を示す声も上がった。
近鉄が23年に実施した別のアンケート(有効回答者1191件)によると、ベビーカーの使用者は117人。このうち、ベビーカーをたたまずに乗り込む乗客は61人(52%)で、半数以上だった。
こうした調査の結果から得られた幅広い意見を基に、やさしばは1両に2カ所、車両中央の扉近くに設けられた。スーツケースなど大型荷物のキャスターを引っかけて動きにくくするストッパーも付けている。
近鉄の担当者は「ベビーカーはたたむことなく乗客自身は着席してもらい、快適に利用いただきたい。やさしばは誰でも使用できるスペースのため、全ての乗客にとって心地よい場所となることを期待している」と話す。
やさしばを設置した新型車両は10月、奈良線、京都線、橿原線、天理線で運行を始め、25年度には大阪線や名古屋線などでも走行する。【洪玟香】
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