元日に発生した能登半島地震では、水道管が大きな被害を受け、石川など6県で約13万7千戸が断水した。復旧作業は難航し、最大5カ月にわたって水が使えず、被災者は困難な生活を強いられた。1日で発生から半年となるのを機に、今回の教訓や個人ができる備えについて、水道事業に詳しい東京大大学院工学系研究科教授の滝沢智さん(65)=写真=に聞いた。(河野紀子)

◆浄水場なども被害

 -能登半島地震で、広範囲に断水した原因は。  まず、最大震度7の強い揺れに襲われたことが挙げられる。地盤が弱い地域が多く、液状化や地滑りが各地で発生した。さらに水道管の耐震化が遅れていた。こうした複数の要因が重なった。飲み水に処理する浄水場や一時的に水をためる配水池といった基幹施設が損傷した点も特徴だ。これらの施設から水の供給を受ける地域一帯が断水した。  -断水は長期化した。石川県では、土砂崩れなどで早期復旧が困難な地区を除いても解消までに5カ月かかった。  被災地が半島の先端にある地理的要因は大きい。道路が寸断され、当初は支援部隊が入るのが極めて困難だった。道路が仮復旧した後も、現地まで片道6~8時間かかった。宿泊施設がなく、早朝に出発しても4時間ほど工事をしたら帰らないといけない。作業時間の確保が難しかった。  倒壊した家屋も多く、道路の下に敷設された水道管から各家庭につなぐ管が多く損傷した。自宅敷地内の水道管は個人の所有物で、被災者自らが業者を探して修理しないといけない。すぐそこまで水が来ているのに、断水が続くケースが相次いだ。

◆人口減少の要因に

 -長期間、水が使えないことは、生活再建の大きなハードルとなる。  特に困るのはトイレとお風呂、炊事、洗濯だ。数カ月に及ぶと被災者の健康に関わる。金沢市などにアパートを借りて、転居した人も多い。被害の大きい輪島、珠洲両市の市長と話す機会があった。人口は地震前から大幅に減り、特に若い世代が転出していることに危機感を持っていた。  地域の店は、人が戻らないと再建できない。若い人や子どもは町の将来を担う。だが、避難生活が長引けば、子どもたちは新しい学校で友人をつくり、なじんでいく。親も新しい仕事を見つける。そして、そのまま永住する人も出てくる。

◆飲み水備蓄 増量を

 -能登半島地震を受け、国は上下水道地震対策検討委員会を設置し、5月に中間案を公表した。検討委の委員長として評価は。  避難所や病院などにつながる重要な水道管や、浄水場などの基幹施設を優先して耐震化することなど、今回の教訓を踏まえた案をまとめられた。半島の先端で起きた今回のような地震は、島国の日本では今後も起こり得る。同じことを繰り返さないよう、対策を進めていくことが大切だ。  -近く起きるとされる南海トラフ巨大地震では、最大約3440万人が断水の被害を受けると推計される。個人ができる備えは。  3日間が目安とされる飲み水の備蓄は、今回の地震を踏まえて1週間にするべきだろう。洗濯できないので服や下着などの着替えを1週間分用意する、シャワー代わりに体を拭くウエットティッシュを多めに備蓄するのも有効だ。  できれば浴槽の水はためたままにし、断水したときにトイレに流す水として使う。給水場から水を運ぶタンクやタンクを載せるカートもあると便利だ。


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