空き家バンクを使って売買された男性の実家=岐阜県八百津町で

 空き家の物件情報を市区町村のホームページなどで紹介する「空き家バンク」。この制度を利用し、岐阜県八百津町内にある築60年の実家が「とんとん拍子に購入者が現れ、売買契約を交わせた」と話す名古屋市内の男性(73)のケースを取材し、実情を探ってみた。 (古根村進然)  「家庭菜園を眺めてのんびりできる家」「駐車場に4台の車が止められ、敷地の南側には畑(120坪弱)が付属しています。夏場の草むしりは本当に大変ですが、憧れの田舎暮らしができます」  町の空き家バンクのホームページに掲載された男性の実家の紹介文だ。男性の実家は、敷地が536平方メートルで、1964(昭和39)年建築の平屋の母屋などを備える。相場に基づく880万円の売却価格も添えられた。  男性は、実家の近くで暮らしていた母が亡くなったため3月にバンクへの登録を申し込んだ。すると、町職員が間取りなどを調べ、各部屋の写真も撮影。集めた情報をホームページに掲載した。間もなく、町内に住む娘夫婦のそばで暮らしたいと考えた九州地方の70代の夫婦が購入を決意。不動産業者の仲介で5月末に売買契約を交わした。近くに病院や介護施設があるといった環境も後押ししたという。  「高校を卒業するまで過ごした思い出のある実家が、取り壊されることなく、引き継がれることはうれしい」。男性はしみじみと語る。

固定資産税の納税通知書に同封するチラシ=八百津町役場で

 同町地域振興課によると、この物件のように、わずかなリフォームで済むケースでは、数カ月で成約することは珍しくない。町では2016~23年度に計240件が登録され、このうち81件が成約に至った。山林が約80%を占める町の自然豊かな環境を求め、隣の愛知県や首都圏などから40代の子育て世帯が移り住むケースが目立つという。  町は、物件所有者の家財道具処分に20万円を上限に補助するほか、50歳未満の購入者らに改修費として200万円を上限に支援する制度も設けて空き家の活用を促す。固定資産税の納税通知書に登録を呼びかけるチラシを同封するなど、PRにも力を入れる。同課の小島将司係長(46)は「町の人口は約1万人。空き家になったらすぐに登録してもらえるような仕組みをつくり、移住者を増やしたい」と意気込む。

◆行政の関与で流通促進 登録や改修時、金銭支援など取り組み

 全国に900万戸ある空き家の利活用を進めるため、空き家バンクを設ける自治体が増えている。国土交通省によると、2019年3月には1261市区町村だったが、23年3月には14%増の1440市区町村となった。ただ、物件の総登録件数(23年3月時点)は12万5722件で、空き家が実際の利活用などにつながった「成約数」は累計7万5725件にとどまるとみられる。  物件の登録が伸び悩む制度を活性化させるため工夫する自治体も。滋賀県米原市は今年4月から空き家所有者が登録すると、5万円を支給する奨励金制度を始めた。登録を2年以上継続することなどが条件となる。市内には千戸を超える空き家があるが、登録は約70戸にとどまる。既に6人への支給が決まっており、市の担当者は「所有者へのインパクトは大きいと思う」と話す。  奈良県宇陀市は通常の空き家バンクとは別に、店舗向けの物件も紹介。物件を活用して起業する人に対して施設改修費として上限200万円の補助金を出す制度を設けた。カフェなどが生まれており、市の担当者は「にぎわい創出のため企業誘致を図りつつ、移住や定住を促進したい」と言う。  行政の関与が必要となる背景には、手間がかかる一方で利益が出にくい空き家特有の理由もあるという。不動産情報や全国版空き家バンクのサイトを運営するLIFULL(東京)によると、空き家を活用するには、不動産の相続登記の状況や、改修が必要かどうかなど物件に関して多くのチェックが必要になる。その一方、仲介手数料は物件価格で上限が決まり、築年数が長く安価な地方の空き家は収益性が低い。そもそも、地方には不動産業者自体が少ない。  国交省不動産業課の担当者は「自治体が関与することで、安心感を得る物件所有者もいる。地方の空き家を市場に流通させるためにも、不動産業者と連携して取り組んでもらいたい」と話している。


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