「ビールパレット」。インターネットの大手フリーマーケットサイトで、検索欄にこう入力すると、ビールメーカーのロゴが入った中古の樹脂製パレットが販売されていた。150枚求める人もいて、1枚数百円のものは売り切れだった。

フリーマーケットサイトに出品されたパレット。希望者のコメントが相次ぐ=一部画像処理

 大手ビールメーカー4社が加盟する一般社団法人「Pパレ共同使用会」の飯泉泰一郎常務理事(54)は「このような不正は氷山の一角。パレットを利用したい人が増えて、こうしたケースが頻発するのでは」と懸念する。  ビール業界は共通パレットを利用する国内の先進例だ。ビールは重く人力での荷役がきつい一方、瓶や缶の規格はほぼ同じ。4社は1992年から同じ大きさのパレットを使い、共同で回収を始めた。おかげで出荷先が、メーカーごとにパレットを仕分けして保管する手間も省けた。  90センチ×110センチのパレットは「ビールパレット」と呼ばれる。日本酒メーカーも加わり2004年に共同使用会を設立。24年5月時点で128社が加盟し、年間延べ4千万枚以上が循環している。  回収率は99%台を維持してきたが、23年に98%台に落ちた。「1%と軽く見る人もいるだろうが、出荷する枚数が多く、20億円超の損失とみている」。飯泉さんは憤る。  会は加盟社以外に流出している事例を調査。フリーマーケットサイトでの販売のほか、市場などで加盟社以外の事業者が輸送や保管のためにビールパレットを使用していることが分かり、23年に流出した2万6千枚を回収した。  飯泉さんは「パレットは無料ではない。なくなれば商品を出荷できず、消費者は商品を買えなくなる。大きな問題だと多くの人に認識してほしい」と訴える。  不正が相次ぐほど高まるパレットの需要。青果物流で使われることが多い木製パレットも状況は変わらない。多くは青果の輸入の際に国内へ入り、「天下の回りもの」と考える事業者もいたほど、かつては市場に潤沢にあった。  それが徐々に減っている。東京・大田市場に拠点を置く青果卸売会社「東京青果」の商品センターの手塚芳浩副部長(55)は「現状は木製パレットの争奪戦。(素材を問わず)利用がどんどん進んでいるから、レンタルで借りようにも借りられない産地も出てくるかもしれない」と危惧する。  パレットのレンタル会社でつくる日本パレット協会によると、加盟社が23年度に保有するパレット数は、木製と樹脂製を合わせて2700万枚で前年度比で5%増えた。国内の生産量は年間6千万枚前後で推移。流通するパレットのうち、レンタルに回るのは5%程度といい、利用者の増加に生産能力が追いついていないとの指摘もある。  物流の効率化に詳しい東京女子大の二村真理子教授は「現状の生産能力のままでは厳しい。不正流出を防ぐには位置情報を追跡できるタグを取り付けるのが有効で、パレットのメンテナンスも含めて国の補助が必要だ」と話す。 

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