北海道内屈指の強力打線を誇る東海大札幌。部員の親たちが手がけた食材をベースに体を鍛え、力強いスイングが生まれた。

 今夏、背番号19でベンチ入りした新谷(しんたに)颯太選手(3年)が入学したのを機に「新谷米」の差し入れが始まった。

 新谷選手の実家は長沼町で代々続く、米農家。隣接する北広島市にあるエスコンフィールドの6倍を超える33ヘクタールもの広大な土地で米の他、麦や大豆も育てる。

 父親の正寿さん(53)は大学まで野球を続け、その後も少年野球の指導者を務めた大の野球好き。

 「野球が好きだから、野球を頑張る子どもたちの役に少しでも立てれば」

 同校野球部は、約100人の部員が切磋琢磨(せっさたくま)する。2年前から、マネジャーが握る「新谷米」おにぎりで、ガス欠を防ぐエネルギー源にしてきた。

 毎日6キロ分の白米「ゆめぴりか」を炊き、2人のマネジャーが練習中、グラウンド脇で握る。「甲子園に行って」との思いを込めて。

 新谷選手の同級生、吉光佑太朗選手の親が天塩町で販売しているサケフレークなどの具材が提供されるようになると、選手たちの食欲に拍車がかかった。

 開幕を目前に控えた6月中旬、東海大札幌のグラウンドでは、マネジャー2人がせっせとラップでおにぎりを包んでいた。カキーン、カキーンと金属バットの快音が響く中、ほどよく脂ののったサケの香りが漂った。

 「きょうの具は何?」と食欲をそそられた選手たちが寄ってくる。調理場ではなく、練習の真横で握るのは、寮生など練習中の隙間時間に食べる選手もいるからだ。2人は1時間半ほどかけて、94個を握りあげた。

 午後7時すぎ、練習を終えた選手たちがおにぎりを奪うように手にしていく。多い選手は二つも三つも食べる。

 北沢優人主将(3年)は「3年生は1年から新谷さんのお米を食べて大きくなった。体重が10キロも増えた。陰で支えてくれる人たちのためにも勝ちたい」。

 新谷颯太選手はレギュラーにはなれなかったが、「自分の家のものがチームに貢献していると思うとうれしい。ずっと家のごはんを食べてきたが、高校からは寮生。再び家のお米を食べられるのも懐かしくて力になる」と少し誇らしげに話した。

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 6月30日、16強入りをかけた札幌地区の代表決定戦で東海大札幌は敗退した。札幌日大の好左腕小熊梓龍投手(3年)の前に、自慢の打線が封じられた。

 涙する息子たちを見て、正寿さんは言った。

 「1回負けたらおしまいなの。はかないでしょう。でも高校野球はそれがいいの。またこの先、頑張ればいいさ」(鈴木優香)

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