北海道旭川市でいじめを苦に女子中学生が自殺した問題や、増え続ける不登校。

 教育現場の課題に対処しようと学校に配置されているのがスクールカウンセラーです。

 一日に密着すると子どもの心のケアにとどまらない役割が見えてきました。

 スクールカウンセラーを知っていますか?

 「聞いたことはなんとなくあるが、あまり詳しくは分からない」

 「名前だけは…聞いたことがある」

 「子どもたちの心のケアをしてくれる感じですよね」(すべて保護者)

 小学生の保護者でも、よく知らないスクールカウンセラーの仕事。その1日を見せてもらいました。

 新川貴紀さん(46)。20年近く、スクールカウンセラーとして、札幌市の小中高校を支えています。この小学校は2年目です。

 心の専門家、「公認心理師」などが担うスクールカウンセラー。さまざまな問題に耳を傾ける「話を聞くプロ」です。

 午前中の相談は2件。1回の相談時間は40分です。最初の相談相手は母親でした。

 「小学校(の相談)では、どちらかというと保護者が多い。日常のささいなしつけだったり、ゲームのことだったり、勉強面だったり…。(相談内容は)本当にちょっとしたことが多いかもしれない」(スクールカウンセラー 新川 貴紀さん)

 スクールカウンセラーの仕事には子どもだけでなく、保護者の心のケアも含まれています。

 「先生とお話できて、楽になりました」「心が軽くなったと思います」(ともに保護者)

 新川さんは、時代の変化に伴い、ここ5年で相談内容も変わってきていると感じています。

 「(スマホやゲームと)子どもたちをどう付き合わせるのか。昔は考えなくて良かったことを、考えなきゃいけなくなってきている。YouTubeや(TikTok)をどうしても長く見ちゃう、中毒になっている(との相談)は増えて来ていると思いますね」(新川さん)

 相談を受ける場所は、放送室です。札幌のほとんどの小学校には相談専用の部屋がありません。

 声が漏れにくく子どもも保護者も相談に集中できるため、放送室を使ったり、会議室や保健室を使ったりしているということです。

 2件の相談を終えた新川さん。あわただしく、車に乗り込みました。

 「(Qこの後は、どちらへ?)北海道教育大です。養護教諭を目指す、学生さんたちの授業です」(新川さん)

 約30キロ、自家用車で約50分。札幌市北区の大学に向かいます。

 新川さんは札幌市にある小学校2校、恵庭市にある高校1校のスクールカウンセラーであり、北翔大など6つの大学の先生と北海道教育委員会の仕事も。

 ”10足のわらじ”を履き、毎日フル回転です。

 「病院に非常勤で週3回勤めて、そのほかスクールカウンセラーをする人もいる。スクールカウンセラーだけだとまだまだ生活は難しい」(新川さん)

 この日は札幌市厚別区の自宅から小学校へ、相談後に小学校から大学、大学の授業後また小学校に戻ってから、さらに別の大学へ。1日の移動距離は約120キロ。札幌市から登別市までとほぼ同じです。

 「(Q体力的に大丈夫?)なかなかちょっと…。行ったり来たりだから、大変ではありますね」(新川さん)

 それでも頑張れるのは、信頼してくれる子どもたちや保護者がいるからです。

 「(保護者や子どもたちに)少しでも元気になってもらえたり、状況に変化が起こったりしたら、いいなと思っている」(新川さん)

 午後3時過ぎ。小学校に戻った新川さん。次の仕事は…。

 「2024年度から毎月1回、学校でいじめ(対策)の会議をするようになった。スクールカウンセラーもそれに入るようになった」(新川さん)

 実は、教師のサポートもスクールカウンセラーが担っています。多くのストレスを抱える教育現場で果たす役割は…。

 スクールカウンセラーは子どもや保護者に加え仕事が多岐にわたる教師の”相談相手”も担っています。いじめ対策会議への参加もその一環です。

 「(学校は)心理的なこと、福祉的な背景も含めて、きめ細かく子どもの理解に努め、丁寧に対処できる組織になっていくことが求められている」(札幌市教委 喜多山 篤 児童生徒担当部長)

 札幌市教委は1995年にスクールカウンセラーを導入。

 深刻化するいじめや不登校の児童生徒のケアをすることを目的に、2008年にはすべての市立の小中高校などに配置されました。

 2023年度、札幌市では約4万2000件の相談が寄せられ、いじめ、不登校、虐待、学習状況などの内容だったと言います。

 2024年度からは小学校へのスクールカウンセラーの配置時間を年69時間から、国が定める標準時間の140時間に倍増し、保護者や教師もスクールカウンセラーと接する機会を増やそうとしています。

 新川さんは2023年度は担当する小学校に2週に1回、3時間のみでしたが、時間が増えたことで、週1回、4時間対応できるようになりました。

 2時間にわたったいじめの対策会議で学校と、教師と、率直な意見を交わした後、石狩市にある大学に向かいました。

 「先生方を元気づけたい。本当に忙しいですよ、小学校の先生方は。先生とスクールカウンセラーがコミュニケーションをとる時間が増えるといいなと思う」(新川さん)

 学校側もスクールカウンセラーを大きな存在と感じています。

 「(Qスクールカウンセラーはどんな存在?)いてくれると安心感が生まれる、そういう存在です。やはり、学校にはいろいろありますからね。やる気を起こさせてくれています」(札幌市立西岡小学校 平沢 知則教頭)

 子ども、保護者、そして教師もサポートする新川さん。スクールカウンセラーとして、大切にしていることがありました。

 「(心は)開かせようと思って開かせるものではない。(みんなが)気づいたらたくさん話してて、『スッキリしました』となってもらえればいいなと思っている」(新川さん)

 学校によりますと、今では積極的にスクールカウンセラーに相談する人が増えています。最大1日3組ですが、予約が入らない日はありません。

 「心の相談」の敷居は低くなりつつありますが、新川さんは、まだ道半ばだと言います。

 「まだまだカウンセラーに相談すること自体に抵抗がある文化もある。(相談することは良いことだと)どんどん広まっていけば良いと思います」(新川さん)

 気軽に相談できる場所が学校にある。スクールカウンセラーの役割は、ますます重要になりそうです。

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