カジーのサービスの利用者宅で台所を掃除するスタッフ=東京都練馬区で

 家事代行サービスの需要が右肩上がりに高まっている。高齢者世帯や共働き世帯の増加を背景に市場の拡大が続く。従来は富裕層が対象というイメージもあったが、手軽に利用できるサービスも増えている。(海老名徳馬)  「時間をお金で買うというか、子どもと過ごす時間を大事にしたいという気持ちがある」。東京都練馬区の女性(39)は、掃除の代行サービスを2週間に1度利用している。毎回土曜日に2時間半、台所やダイニングとバス、トイレなどの掃除を依頼し始めて2年半ほど。「代行がない生活はもう考えられない」と話す。  夫婦共働きで6歳の長男と3人で暮らす。法人事務所を営む夫は土日曜の仕事も多く、女性も平日はフルタイムで働く。夫から「育児をしながら家事もやっていたら体が持たない。少しでも楽をできる方がいいのでは」と勧められ、家事代行業者CaSy(カジー、東京)が手がけるマッチングサービスを利用している。

◆リーズナブルな料金

 定期利用のため「その日は休めると思うと心理的にありがたい。そこまで家事は最小限、できることだけでいいと思える」。代行するスタッフが水回りや部屋を掃除する間は、時に子どもと遊び、夫が子どもと外出する時はゆっくり過ごすことも。代行を依頼しない週は「土曜日に三食作って食器を洗って洗濯物を干して、とやっていると、一日が家事で過ぎ、日曜に持ち越すこともある」。掃除をしてもらう時間だけでなく、他の日や週末全体の過ごし方、気持ちの面でも大きく影響するという。2時間半で8105円の料金は「リーズナブルで、必要経費だと思っている」。  カジーは、利用者の依頼を受け、業務を委託する登録スタッフを紹介。依頼の内容や地域に応じてインターネット上でマッチングする仕組みで、社が直接雇用するスタッフが業務を担う従来のビジネスモデルに比べて経費が抑えられる。質を維持するため研修などに力を入れ、顧客の評価を賃金などに反映する仕組みも導入している。  掃除と料理の代行サービスを現在は10都府県で提供し、登録利用者は17万人以上。スタッフは1万5千人でいずれも増え続けている。依頼の増加に伴い、なかなか仲介が成立しないケースも増え、今年の2月には同業他社と働き手を相互に融通する仕組みも導入した。2014年に事業を始めた同社代表で最高経営責任者(CEO)の加茂雄一さん(41)は「需要と供給のバランスをとれるようにしたい」と話す。

◆細かいニーズ増える

 より細かいニーズに対応するサービスもある。株式会社「御用聞き」(東京)は、身の回りの困り事を5分100円から請け負う。  名古屋市などを担当する永田純さん(52)が6月に受けた依頼は、団地のエレベーターマットの清掃。表裏両面を洗って乾かし、エレベーター内も掃除した上でマットを戻す。15分の作業で、別に必要な出張料を含めて料金は880円。依頼者の女性は「住民がみんな年を取ってきて、頼めるものなら頼みたいと思っていたので助かる」と喜ぶ。

集合住宅のエレベーターマットを洗う「御用聞き」の永田純さん=名古屋市守山区で

 同社に寄せられる依頼は、電球や電池の交換、靴のひもを通す、粗大ごみの移動などさまざま。社会全体の高齢化が進み、ここ数年は「何でもいいから顔を見せに来て」との依頼も増えている。「必要なことがあれば顔を出した時に頼むから、と言われる。御用伺いのような形」と社長の古市盛久さん(45)。初めての利用から3カ月以内にまた依頼をする人は約8割に上るという。

◆市場規模 9年で6倍超 ネットで“大衆化”進む

 家事代行業者は2000年代に入ってから増えたと言われる。家事について長年研究する日本女子大教授の永井暁子さんは「インターネットの普及で、料金や契約の仕方、どんな仕事をするのかが、利用者に見えるようになり、家事代行の大衆化が進んだ」と説明する。  10年代後半には家事代行のマッチングサイトも登場。帝国データバンクの調査では、21年度の市場規模は前年度比9.4%増の807億円で、12年度から6倍以上と右肩上がりに成長している。  共働きの増加もあり「女性による家事イコール愛情という意識が薄れ、『代行があればいい』という方向に少しずつ変わってきている」。近年では、都会で働く人が地元の両親のためにサービスを依頼する例も増えているという。「高齢化が進めば、介護保険の対象ではない部分などを、いろいろなサービスを組み合わせて対応することになる。家事代行への抵抗感はだんだんなくなっていくのでは」と予想する。  ただ、業態が増える中で、トラブルも増加しているとされる。永井さんは「例えば、個人同士をつなぐマッチングアプリなどを利用する場合でも、相手が保険に入っているかは確認した方がいい。貴重品などは引き出しにしまうなど、サービスを利用する側が気を付ければ、働く側も誤解を受けずに済む」と気遣いの必要性を呼びかける。


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