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 7月7日に投開票が行われた東京都知事選挙。結果は現職の小池百合子氏が42.8%という得票率を誇り圧勝、3選を決めた。17日間に渡る選挙戦は、連日テレビの地上波放送でもその様子が伝えられたが、小池氏に始まり前安芸高田市長の石丸伸二氏、元参議院議員の蓮舫氏、元航空幕僚長の田母神俊雄氏という4候補を扱うケースが目立ち、史上最多56人が立候補したにもかかわらず、その他の52人との扱いには大きく差があったと、候補者たちからも不満が噴出した。そんな中、テレビに映ることなく5位に入り、15万票を獲得したのがAIエンジニア・安野貴博氏だ。特に選挙戦後半、ネットを中心に注目された候補者ながら、なぜテレビ番組では扱われなかったのか。『ABEMA Prime』では、選挙報道の在り方について、活発な議論が展開された。

【映像】ネット上で話題になった安野氏の妻・里奈さんの激アツ応援演説

■初挑戦で15万票を獲得 東大卒のAIエンジニアに注目

 AIエンジニアの安野氏は、今回が初の政治活動。テクノロジーの力で誰も取り残さない東京を作る「デジタル民主主義」を掲げると、最終的には130ページにも及ぶことになった骨太な政策を発表。支持者からの声を反映してアップロードしていく「参加型マニフェスト」を採用した。さらに得意分野を生かし、このマニュフェストを学習させたAIがいつでも質問に答える「AIあんの」を提供。都内1万4000カ所の掲示板については、ネット上にマップを公開し、ボランティアなどが貼っていくうちに、そのマップが埋まっていく施策を展開すると、ゲーム感覚の楽しさも手伝ってか見事に掲載率100%を達成した。このほか、妻の里奈さんが行った街頭演説もネットで大バズリし、今回の都知事選における“時の人”になった。

■大健闘もテレビ関係者からは次回挑戦しても「有力候補ではない」の言葉

 選挙未経験者がいきなり15万票も獲得したという結果を受けて、選挙後には各テレビ局から出演オファーが殺到することになった安野氏だが、実は選挙期間中はほとんどテレビに映らなかった。安野氏を支えた里奈さんは「選挙の17日間を、ほぼ名前を知っていただく活動にあててしまった。支持者参加型の選挙にしたかったはずが、参加してもらうまでのハードルがここまで高いのかと悩んだ。それが票の結果にもつながった」と、実質ゼロに等しい知名度を押し上げるだけで精一杯だったと悔やんだ。ネットを軸に地道な活動を続けた安野氏だが、有名なインフルエンサーなどに注目され始めたのも、選挙戦後半に入ってから。安野陣営からすれば、17日間は実に短かった。

 同時にマスメディアであるテレビの報道についても疑問が出た。小池、石丸、蓮舫、田母神という4候補は連日見るものの、他の候補の情報が出てこない。里奈さんは安野氏がテレビ出演をした際のやりとりを告白。「選挙が終わった後に出させていただいているということで、次回出たら有力候補なんですかと聞くけれど、だいたい『違う』と言われる。みなさん独自の線引きを持っていて、政治的にこれだけ活躍したとか、わかりやすく言えば得票率10%を超えたことがあるとか。4年後、安野が同じように立候補しても、同じようなスタートになってしまう」。

■テレビが取り上げる“いつもの”有力候補の基準に疑問符「政治家の新陳代謝には明らかにマイナス」

 里奈さんも「あまりにも地上波が横一列の行動をされていると思う。もうちょっとオリジナリティのある報道を心がけてもよいのではと思うところはあった」と指摘する。また、ひろゆき氏も「候補者というのは公正中立、平等に扱わなければならない。ただ、今回56人を扱うのは無理じゃないか。そうすると一定ラインを超えた人だけを扱わざるを得ない。なので『こいつはおもしろい』ということをメディアが選んでやるというのが、テレビができなくなってしまった」と述べた。

 この実態にリディラバ代表の安部敏樹氏は「局として、ちゃんと説明できるあ新しい独自の基準を提示するのがいいのではないか」と訴えた。「例えば、候補者を世代別に分類して、その中から1人か2人選出して注目する人を選ぶという形にすれば、そこには公平性はあると思う。30代で出てきている人の中から、立候補前の活動や公的な選挙に出たことがあるか、など、複数の基準で検討するものだ。それであれば、十分に説明可能な基準に出来るのではないか」

 この意見に対してはジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「安部さんの論は正しいと思う。一方でそれは『良き候補者』がいるというのが前提になっている。テレビの基準に達しないので取り上げられなかった安野さんが、選挙戦が終わった後に出演が増えたのも、まともだったから。たとえば10万票以上取っている人を取り上げるとなったら、タブーになるような人も扱うしかない。今、安野さんを取り上げていることにも、公正ではない何かが働いている」と語った。

 実際、期間中に取り上げられなかった安野氏自身はどう思っていたのか。「今の(扱いの)線引きは政治経験を重要視している。これは政治の外にいた人からすればかなり不利な状況。政治家の新陳代謝を促すという側面だと、明らかにマイナスだと思う」と、“お決まり”の候補者ばかりが出る状況に警鐘を鳴らすと同時に、最多56人が出たカオスな選挙戦で問題行動の報道も増えたことにも着目。「問題行動については報道があり、むしろそちらの方がテレビに出るハードルが低く、一生懸命にやっている人が出ないというのは、逆のインセンティブになっている。名前を売りたいだけの人であれば、迷惑行動をした方がいい。今回もいろいろなことがあったが、今の報道体制がそういう行動を誘発している可能性もあると思う」と、政見放送やポスター掲示に関する様々な行動の方が優先的に報道された実態を問題視した。

■ひろゆき「テレビなどのマスメディアがきちんと討論会をやれる社会にすべき」

 テレビ局の選挙報道について、ひろゆきは「長期的にはネットを使うしかない」という。「結局、有力候補の討論会もネットだけでテレビではやれなかった。平等でないものもネットでやるしかない」と、横並びのテレビ番組では候補者、有権者どちらもが欲する討論会の実現は難しいとした。ただ、ネットに“戦場”が移ることの危険性についても同時に指摘した。「たぶんこの後に起こるのは、めちゃくちゃ金を持っている人がコントロールをし始めるということ。テレビと違ってインフルエンサーと対談して有名になりました、ネットでこの人が話題になりました、というのがアリだとすると、お金を払ってでも有名人を呼ぶということが裏で動いてしまうかもしれない。そういう人ほどネットでどんどん知名度が上がって『有力候補だよね』となることは、長期的にはよくないことだと思う」。豊富な資金力を持つ候補者が“金で票を集める”事態を招く、という説だ。

 その上でひろゆきは「やっぱり演者に金を払わないテレビなどのマスメディアが、きちんと討論会をやれるような社会にするべき」と訴えた、さらには「僕は平等、公正は捨てるべきだと思う。56人の候補者を平等にしようとして1人1分でも56分かかるので無理。そうなると、やはりまともな人を選ぶ覚悟が必要。『うちは平等でも公正でもないので、嫌いな人は見なくていい』ぐらい色をつけてはどうか」と提案した。これに安部氏は「今、メディアがどこまで頑張っているかという話の裏返し。放送における平等性の話を変えるのは、民主主義の根幹中の根幹なのでかなり難しいが、番組側がどこまでがギリギリのラインで、どこからがアウトなのかという事例を積み上げていかないと、ずっと横並び思想が進んでしまう」と加えていた。

(『ABEMA Prime』より)

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