失敗したらおしまいだ、失敗しないようにしなければ、という気持ちが強すぎると、小さく縮こまった人生になってしまいます(写真:Claudia/PIXTA)ほんの小さなことからでいい。「自分に何かできることはあるかな」と考え、少しだけ利他的に行動する。それが、自分にも多くのよろこびや、幸せをもたらしてくれる――。新著『与える人「小さな利他」で幸福の種をまく』では、『女性の品格』の著者、坂東眞理子さんが、自分中心主義からちょっと離れ、周囲や他者の問題にもう少し目を向けることがいい人生をつくるコツだと説きます。本稿では、同書から一部を抜粋、編集してお届けします。

人生「8勝7敗」のすすめ

大相撲は一場所15日、それぞれの場所で8勝7敗だと「勝ち越し」です。それを続けていけば昇進します。

どんなに強くても15勝全勝はとても難しく、優勝力士でも13勝ほどです。野球選手の打率も3割行けば上々。あの大谷翔平選手だって7割は三振したり、凡打で打ち取られたりしているのです。

人生も同じだと思います。

うまくいったことと、うまくいかないことが混在するのが人生。だから、うまくいったことが、うまくいかなかったことより少し多い程度でも十分に幸せなのではないかと思います。

うまくいったことばかりで、何も失敗しない人生はあり得ませんし、失敗しないのはリスクを取っていない、つまり、うまくいく可能性の高いことしかしていないということです。

失敗したらおしまいだ、失敗しないようにしなければ、という気持ちが強すぎると、小さく縮こまった人生になってしまいます。

失恋が怖いから恋愛しない、離婚するのが怖いから結婚に踏み切らない、落第するのが怖いから試験を受けない、業績評価が怖いから外資系企業にはいかない、落選が怖いから選挙に出ない、事故が怖いから旅行に行かない、倒産が怖いから起業しない、という人はたくさんいます。

たしかに、チャレンジしなければ失敗はないし、安定した生活が維持できるかもしれません。

また、失敗すると周囲に迷惑をかけてしまう、人に迷惑をかけないようにしなければならないから失敗する可能性のあることには手を出さない、という人もいます。

しかし失敗して迷惑をかけても、そのあと倍返しで、かけた迷惑を取り戻すこともできるのです。チャレンジしてはじめて、それまで気がついていなかった自分の力に気がつくこともあります。

失敗しても人生は終わらない

失敗で迷惑をかけるのを恐れるのは、自分が迷惑をかけられたくないという気持ちが強く反映しているのです。

「少しぐらい迷惑をかけられてもお互いさま」と思えれば、自分も適度に迷惑をかけるのを恐れなくなります。

「失敗したらおしまいだ」と思い込んでいる人はたくさんいますが、現実には失敗しても、そこから立ち上がった人はたくさんいるのです。けっして失敗で人生が終わるわけではありませんし、失敗すると一生みじめな状態が続くわけではありません。

たとえば1997~98年の金融危機で、日本長期信用銀行、三洋証券、北海道拓殖銀行など、日本の大銀行や大証券会社がいくつか倒産したり、合併されたりして、多くの人が転職を余儀なくされました。

私も当時は「定年まで働くつもりで就職した大銀行が倒産するなんて、なんて運が悪い、気の毒な人たちなんだろう」と同情したものです。

しかし、転職して苦労された方も多かったでしょうが、その後四半世紀たってみると、彼らはそれぞれ新しい職場で頑張って、成功しています。

大銀行で定年まで働くより、むしろいろいろな分野で新しい経験を積み、充実した職業生活を送ったのではないか、そう思える方がたくさんいます。

定年まで働くつもりだった安定した職場がなくなって、否応なく転職・求職せざるを得なくなったときは大変で不運だと、嘆いていたかもしれません。

でも、数年すると、力のある人たちは新しい職場で新しいチャレンジをはじめています。多くの人は組織が固まっていた大企業より、自分の能力を発揮しているのです。

利己心を捨てる広がる世界

もちろん、安定した仕事について収入を得て、安定した家庭を築き、そこそこの生活を送るというのも幸せな人生です。8勝7敗でいろいろ苦労するより、勝負をしないほうがよいという考え方も否定しません。

しかし、あまりに安定を求めすぎると失敗を怖がるようになります。

失敗を恐れると何もできず、何もしないで終わってしまう。それでは人生に不完全燃焼感が残ります。 失敗するかもしれないけれどチャレンジしてみると、うまくいかなくても納得できるはずです。ヒットは打てなくても、打席に立ち続けましょう。

そして、失敗することで多くの人は人間的に成長します。

状況判断、能力・スキル、何が足りなかったか、いやというほどわかります。失敗するつらさ、悔しさ、恥ずかしさ、自信喪失、絶望を経験すると、そうした状態にある人の悔しさ、つらさがよくわかってきます。

どん底に陥ったとき、人からかけられた温かい一言がどんなにありがたいか、身に沁みます。

また新たに失敗したり苦労したりすることがあっても、以前に一度失敗を経験していると、自分はあの苦しさに耐える力があったのだから、今度もなんとか乗り越えられるだろうと考えることができ、「大丈夫、何があってもやっていけるさ」という自信につながります。

失敗を恐れない気持ちになるには、このような「失敗しても自分はなんとかなる」という自己肯定感が必要なのです。  

「誰かのために」が勇気のもと

それだけではありません。

『与える人 「小さな利他」で幸福の種をまく』(三笠書房)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

自分が持っているものを失いたくない、損したくない、苦労したくないと失敗を恐れるのは、自分の利益を守ろうとする「利己心」にとらわれているからです。

そんな利己心にとらわれていると、失敗を恐れすぎてしまいます。

そこで、少しだけ利己心から解放されるように意識してみましょう。すると、もう少し柔軟にいろいろなことに挑戦できます。それによって人生の可能性が広がっていくのです。

自分の利益のためだけでなく、社会がよくなるように、困っている人に役に立つように、もっと人々の暮らしが便利になるように、など、少し利他的な気持ちを持つようになれば、挑戦する意欲が湧いてきて活動範囲が広がります。

失敗を恐れすぎるのは、利己心にとらわれているからです。利他心にスイッチを入れれば、リスクを取る勇気も湧いてきます。

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