京都アニメーション放火殺人事件で犠牲となった、天才アニメーターが30年以上前に描いた絵本があります。
残された仲間たちは、この絵本をアニメ化することで、その遺志を受け継いでいます。
■「『思い』はわれわれが受け継ぎ、広める」 かつての同僚が監督を務め絵本をアニメ化
7月6日、東京都内でアニメの上映会が行われました。
原作となった絵本は、「小さなジャムとゴブリンのオップ」。
この絵本は、魔法使いの見習い「ジャム」が、怪物「オップ」との関わりを通して、魔法使いとして成長していく物語です。
【エクラアニマル 豊永ひとみ社長】「35年前、エクラアニマルにいた、木上益治さんが残した絵本です。彼は5年前の7月18日、京アニの事件で命をなくされました」
手掛けたのは京都アニメーション放火殺人事件で犠牲となった木上益治さん(当時61歳)。
木上さんは「AKIRA」や「火垂るの墓」など多くの有名作品に関わり、京アニでは若手を育てた「京アニの師匠」とも言われる人でした。
木上さんが京アニに所属する前、アニメーター駆け出しの頃にいたのが今回、アニメ化を手掛けた東京の制作会社(「エクラアニマル(旧あにまる屋)」)です。
かつて同僚だった本多さんは、才能にあふれた木上さんの姿を振り返ります。
【木上さんの元同僚 本多敏行さん(2020年)】「丁寧に絵作りしていて、(キャラクターの)表情も豊かだし、何か非凡なものを感じますね。当時、周りの人間も『木上に描けない絵はない』と裏で言ってるくらい絵も上手だし。子供向けから大人向けまでなんでも描けちゃう」
若かりし頃の木上さんが描いたこの絵本は、キャラクターのかわいらしさに加えて、ちょっぴり哲学的で子供たちに考えさせるストーリー。
本多さんは「多くの子どもたちに見せたい」と、自ら監督を務め、この絵本をアニメ化しようと立ち上がりました。
パソコンでの作業が主流となる中、このアニメはひとつひとつ、すべて手描き。
数々の人気アニメを手掛けてきたアニメーターたちによって、主人公のジャムやオップの表情に魂が込められていきます。
【今回のアニメで監督を務める 本多敏行さん】「作品というのは作った本人の手を離れて、独り歩きするもの。『彼の思い』は、別になくなったわけじゃなくて、それをわれわれが受け継げばいいと思っている。やっぱり基を作ったのは木上くん自身だし、むしろ広めてやるのは、それを知っている自分たちの役割かなと」
長い構想期間を経て、去年、アニメ化へ本格始動。
ことし3月にようやく完成しました。
■アニメを見た人は「深く考えさせられた」「残されたシナリオ全部やりたい」と監督
そして7月、アニメが完成してから初めて、制作会社がある西東京市の地元の人たちに公開されました。
【アニメ本編】
【おじいさん】「これは魔法のパンじゃ」
【ジャム】「えっ?このパンをどうするの?」
【おじいさん】「それは自分で考えるのじゃ。いいかい?たとえばおまえの心が勇気を持てた、その時、奇跡は起きるのじゃ。一度だけ魔法が使えるんじゃ」
【ジャム】「はあ…いろいろ考えたけど、ちっとも何も起きないや。ぼくには勇気がないのかな…。勇気っていったいなんなんだろう?」
見た人は…。
【鑑賞した人】「すごくほのぼのとしていて、あったかい話だなと思いました」
【鑑賞した人】「すごくかわいらしい絵柄で、メッセージも素敵で、『勇気を持つ』ということがなんなのか、深く考えさせられました」
木上さんはアニメ化を見越してか、この絵本のほかにも8話分のストーリーを残しています。
木上さんが亡くなって5年。木上さんが残した作品は仲間たちの手によって新たな命が吹き込まれ、生き続けています。
【本多敏行さん】「やっぱり一緒にやっていた仲間が、急にいなくなるのはショックが大きい。そういう意味では、5年前も今も変わりはない。ただ変わったところは、作品を1本作ったことで、『次にどういうふうにやろうか』と今考えている。木上くんが書いたシナリオがあるので、それはとりあえず全部やりたい」
(関西テレビ「newsランナー」2024年7月18日放送)
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