屋根一体型の太陽光発電設備を備えた住宅(一条工務店提供)

 温室効果ガス削減に向けて新築住宅などへの太陽光発電設備の設置が、来年4月から東京都と川崎市で義務化される。住宅が集中する首都圏での取り組みに注目が集まるが、「2030年に新築住宅の6割に太陽光発電を」という国の目標を達成するには、全国への波及が欠かせない。関係者からは制度の“標準化”を求める声も上がる。 (有賀博幸)  今月初めに開かれた自然エネルギー利用推進に向けたオンラインセミナー。講師の自然エネルギー財団(東京)の塚本悠平研究員は「50年に使用されている建物の多くは、これから建てられる。住宅への太陽光発電の設置標準化は、なるべく早く始めた方がいい」と強調した。建築から年数がたった住宅は、今後25年ほどの間に建て替えられる可能性が高い。政府の50年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の目標達成に向け、東京都や川崎市の取り組みが各地に広がることを期待する。  東京都と川崎市の新制度の特徴は、太陽光発電設備の設置義務を、個々の施主や建て売りの購入者ではなく、建築を手がける大手ハウスメーカーなどに課すとした点だ。いずれも、延べ床面積2千平方メートル未満の中小規模の建築物を新築する際に適用される。  住宅購入者にとって、ハードルとなるのが価格に百数十万円上乗せされる設備の設置費用。ただ、都は一般的な4キロワットの太陽光設備を設置した場合、初期費用115万円が13年で回収可能。電気代など30年間の支出と収入を比較すると、最大140万円の利益が出ると試算する(昨年8月時点)。手厚い補助制度も用意し、負担軽減を後押しする。改正条例成立後、2年余の周知期間を設けており、「住宅を新築予定の都民へのアンケートで、7割は新制度を認識している」と環境局の担当者は話す。  一般社団法人太陽光発電協会(東京)によると、国内の住宅用太陽光発電の累積導入件数は、22年度で316万件。単年度では、再生可能エネルギーを固定価格で買い取るFIT制度が始まった12年度以降、価格の低下に伴い減少していたが、17年度を底に上昇に転じた=グラフ。中西英雄住宅事業推進部長は「近年は太陽光設備の導入コストの低下や電気代高騰の影響で、電力会社から電気を買うより自宅で電気をつくって使った方が安く、導入スピードが上がっている。災害時の備えも動機になっている」と話す。  東京都と川崎市、同協会は昨年6月、3者協定を締結。太陽光発電の普及啓発や情報収集に努めるとともに、他自治体への普及を盛り込んだ。ホームページで制度の内容の詳細を公開しており、他自治体に検討材料にするよう勧める。  国内外の動向に詳しい資源総合システム(東京)の貝塚泉首席研究員によると、23年の太陽光発電の国別新規導入量で、1位の中国は前年から倍増の235~277ギガワット(1ギガワットは約20万棟分)。一方、7位の日本は、前年と同水準の6・3ギガワットにとどまり、国に野心的な導入目標の設定を求める。併せて「コンパクトな形で制度設計できる自治体の役割は非常に重要」とし、「首長や議員に対し、『わがまちも再エネ目標を定めて』『太陽光設備の設置義務化の条例制定を』と声を上げて」と住民に望む。


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