特集は趣味を極める男性です。釣りやダイビングに親しんできた理容師の男性が30年に渡って作り続けてきたのは「海のジオラマ」。作ることの喜びにあふれ、アートとして評価されています。


■「超老芸術展」で展示のジオラマ

豊漁を願う港町の正月。

こちらは「ローリングストーンズ」をモデルにしたビーチライブ。いずれも、ミリ単位のパーツを組み合わせて作ったジオラマです。


来場者:
「びっくりしましたね。見飽きないですね、ルーペが必要です」


作品は現在、池田町で開催中の高齢者のアート作品を集めた、その名も「超老芸術展」(~8月25日)で展示されています。


■制作したのは75歳の男性

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん:
「突先の堤防の階段の下にいるのが私なんです」


制作者の一ツ柳外吏春さん75歳。40代後半から趣味で作り続けてきました。

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん(75):
「やはり完成したときの喜び。達成感ですね、それが大事だと思います」


■「海」が舞台の作品を制作

若い頃から、釣りやダイビングに親しんできた一ツ柳さん。

作品の舞台はどれも「海」です。


冒頭で紹介したのは、南伊豆町を舞台にした作品。

漁師たちが、船の上から縁起物の餅やミカンをまく「初乗り」を再現しました。

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん(75):
「正月の大漁旗・飾りが派手な作品で、自分では納得しています」

海の中もリアルに再現。マンボウやよく釣るというマダイが泳いでいます。

一方で、こんなユーモアも。

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん(75):
「タコが羽子板を持って、人魚も羽子板を持って、羽根つきをやっています」


■800の人形制作も「楽しい」

南国のビーチを表現したこちらの作品には、なんと800体もの人形を配置してあります。

服装、動き、そして表情もさまざま。

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん(75):
「(服が)ダブっちゃいけないし、サングラスかけよう、帽子をやろうとか変えていかないと、自分じゃこだわってるんでね」


さぞ大変な作業だったと思いきやー

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん(75):
「自分では、楽しくて楽しくてしょうがないですよ」


■一ツ柳さんの本業は理容師

緻密でユーモアあふれる作品。どのように制作しているのでしょうか?

7月5日、下諏訪町―。

一ツ柳さんの本業は理容師。80年近く続く理髪店の2代目です。


カット台のすぐ脇には神奈川・真鶴町の「貴船まつり」を題材にした「過去最大」の作品が置かれています。


■制作過程は?

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん:
「人形の原型を作りたいと思います」

店は仕事場であり、「アトリエ」でもあります。

客がいない合い間に作り方を見せてもらう―。

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん:
「頭の部分を作って、ちょっと胸の辺を押して、足の辺をカッターで切ります」


使うのは「石粉粘土」。

まず胴体と足を作り、腕を取り付けると人の原型ができあがります。


一晩、乾燥させて固まったら、削って、凹凸をつけていきます。

サンドペーパーで表面を整えたら、アクリル絵の具で色を重ねていきます。ミリ単位の作業です。

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん:
「明けても暮れても、こんなことばっかりやってたわ(笑)。(作り方を勉強した?)ないない!自己流で」

「料理」も再現。

ステーキにナイフとフォーク。ビールジョッキも。

1円玉が巨大に見えます。


■子どもにばかにされたのを機に

ジオラマ作りに没頭してきた一ツ柳さん。始めたきっかけは、たわいもない会話でした。

40代の頃、息子3人とテレビでジオラマ制作の様子を見ていたときのこと。

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん:
「『こんな簡単なこと、お父さんすぐできるよ』って言ったら、子どもたちにばかにされました。親のメンツにかけてもやらなきゃいけないってことで」


こちらが、「メンツをかけた」最初の作品「日本の海」。

実際に釣った小さな魚の剥製も使っています。

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん:
「楽しかったです。やっぱ物作りってことは、床屋さんなもんで、手の感覚は良かったと思いますよ」

■「神様が与えてくれた」ジオラマ

以降、次々と難しいテーマに挑んできましたが、熱中したのには理由がありました。

実は、始める前、交通事故で大けがをして2年半、入院生活を送っていたのです。

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん:
「これでダイビングもできないし、沢登りもできないし、苦痛で悩んでいた時があったので、(ジオラマ制作は)神様が与えてくれたものだと思いますよ」


そんな父を、長男・敬行さんはー

長男・敬行さん:
「(当初は)何やってるんだろうなと思ったんですけど、1人で根気よくやっていて、とても素晴らしいと思います」

■8年前から30作目を制作中

現在、集大成と位置付ける30作目の制作が進行中です。

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん:
「最後の作品で30作目さ。『リオのカーニバル』にしようと」

取り掛かったのは2016年。

途中、母の介護や自身のがん治療で中断していましたが、最近、再開しました。

今、作っているのは海岸沿いのショッピングモール。


3階建てに重ねてしまえばほとんどは見えなくなりますがー。

記者:
「手を抜こうとは思わない?」

一ツ柳外吏春さん:
「思わないね。やっぱり見る人は、こうやって見ちゃう」


■作品「まつり」の見どころはー

「超老芸術展」には6つの作品を出品。自信作は2007年制作の「まつり」です。

舞台は架空の海辺の街。祭りも想像を膨らませました。


龍をあしらった大きな山車。

神職が先頭に立っています。

山車の上にはー

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん:
「クジラです、哺乳類で一番大きいと言ったらクジラ。こういうの(山車)があればいいなと思って」


みこしのてっぺんは鳳凰ではなく『ミノカサゴ』。

にぎわう屋台に、楽しそうな家族連れ。取材クルーも。

役員の一部はこっそり宴会を始めています。


堤防にいる2人は、もしやー

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん:
「ぼくですよ。ぼくと、どこの彼女かな?女房とは限りませんよ(笑)」


■75歳でも衰えぬ制作意欲

けがや病を経てものを作る喜びを人一倍感じてきた一ツ柳さん。制作意欲は75歳になっても衰えていません。

ジオラマ制作者・一ツ柳外吏春さん(75):
「自分でやりたいことをできるってことは、最高だと思ってね。やる気になれば人間、誰でもできますよ、何でも。問題はやる気があるかないかだよ。それだけです」

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