横浜市で2月に開かれたクラフトビールイベント「ジャパンブルワーズカップ2024」の審査会で、和歌山県有田川町の醸造所「NOMCRAFT BREWING(ノムクラフト ブリューイング)」が出品したビールが部門1位を獲得した。町と米ポートランド市が連携したまちづくりが縁で保育所だった建物の一画で始まった小さな醸造所が、地元に明るい話題を届けた。【姜弘修】
ノムクラフトは2019年に開業。現在のスタッフはヘッドブルワー(醸造長)のアダム・バランさん(35)をはじめ、金子巧さん(34)▽ギャレス・ウィリアムスさん(42)▽中村準也さん(28)▽マーク・マッデンさん(28)――の計5人で、いずれも海外や県外からの移住者だ。
ジャパンブルワーズカップはブルワー(ビール職人)たちが審査するのが特徴で、今年は130醸造所が515銘柄を出品。6部門で最多の140銘柄がエントリーしたIPA(インディア・ペールエール)部門で、ノムクラフトの「オクトパスキング」が1位に選ばれた。淡色エール部門でも出品した「テンググルーブ」が5位に入賞した。
初出場した20年は全て予選落ちで、コロナ禍による中止を挟んだ23年は「オクトパスキング」だけ決勝に残ったが、入賞は逃していた。磨き上げた「オクトパスキング」は口の中にホップのジューシーさが広がり、苦みもすっきりして飲みやすいといい、マネジメントを担当する金子さんは「予想もしなかったので驚きと共にすごく喜んでいる。おいしいビールを造ることだけに注力し、やってきたことが正しかったと確認することができた」と結果をかみ締めた。
まちづくりが契機
ノムクラフトが有田川町に醸造所を構えた前段には、「全米で最も住みたいまち」と評価されるようになったポートランド市にならい、町が15年から始めた住民主体のまちづくりがある。16年に閉所した田殿保育所跡地の活用もプロジェクトの柱の一つだった。
その頃、日本でブルワリー(醸造所)をやりたいと考えていたアダムさんら米国出身の2人が大阪の百貨店で開かれたポートランドフェアを訪れ、ブースを出していた有田川町と接点ができた。水質が良く、ビールの副原料となる柑橘(かんきつ)などが豊富で、発酵の文化もあることを知り、町に向けてブルワリーをプレゼンしてミーティングを重ねた。
そのタイミングで町に滞在していたのが金子さんだ。海外を旅する中で出向いたポートランド市で、視察に来ていた町民有志と出会ったのが縁だった。ミーティングの通訳に入り、事業にも加わることになった。「一番は町で素晴らしい人たちと巡り合えたから」と金子さん。旧田殿保育所をリノベーションした複合施設「THE LIVING ROOM」(同町長田)の一画で、3人でビール醸造をスタートした。
5人のチームとなった現在、金子さんは「新しいものをどんどん取り入れられるのがうちの強み」と言う。「僕らが追い求めるおいしいビールを造ることに変わりはなく、そのビールがきっかけで有田川町を訪れてくれる人が少しでも増えればと思う」。丹精込めたビールをより多くの人に届けるため、年内に醸造スペースを拡張する予定だ。
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ノムクラフトの缶ビールはオンラインショップの他、地元では同醸造所や石本酒店などで購入できる。主な価格帯は1本600~800円。ノムクラフト(070・4211・5114)。
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