サタデーウオッチ9(8月3日放送予定)
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「イラスト」「無料」と検索して…
おととし3月、福島県南相馬市に届いた1通の郵便。
差出人は大阪府のイラスト制作者の代理人を名乗る弁護士でした。
書かれていたのは、広報紙に掲載されているイラストが無断使用にあたるのではないかというもの。
市にとっては、寝耳に水の連絡でした。
かつて発行した、生涯学習センターの広報紙。
地域で実施したテニスの催しに関する文章にあわせて、ラケットなどが描かれた二点のイラストを掲載していました。
これが、有料だというのです。当時の状況を調べたところ、担当の職員はこう答えました。
「インターネットで『テニス』『イラスト』『無料』などと検索して出てきたイラストを使用した。無料だと思っていた」
市はその後提訴され、去年25万円の損害賠償金を支払うことで和解しました。
当時の詳しい状況は分からないままでしたが、市は利用規約を確認するなどの基本的な対応ができていなかったとしています。
南相馬市教育委員会 生涯学習課 鈴木隆一 課長
「無料と検索して出てきたものなので、すべて使ってもいいという認識でいたのだろうと考えています。われわれ自身の著作権に関する理解が浅かったと思います」
市ではその後、全職員を対象にした著作権に関する研修などを行い、再発防止に取り組んでいます。
100万円以上 賠償のケースも
広報誌や学校だよりなどで使用したイラストが「無断使用」にあたるとして、著作権者から損害賠償金などを請求されるケースは全国各地の自治体で相次いでいます。
山梨県富士川町は、広報誌やチラシに掲載した人物のイラストなど4点が無断使用だったとして、ことし5月、著作権者らに111万5380円の解決金を支払ったことを明らかにしました。当時担当した職員はインターネット上で見つけたイラストを無料で使えるものだと認識し使用していたということです。
また、山梨県昭和町では広報誌に掲載したイラストが無断使用だったと、ことし6月に明らかにし、443万5200円を損害賠償金として支払いました。このイラストはかつて町が発行した都市計画の冊子で、著作権者の許可を得て使用していたものでしたが、二次使用については許可を得ていませんでした。
このほか取材した多くの自治体は「インターネットで『無料』『イラスト』などと検索して、出てきた画像を使ったとみられる」「無料で使用できる“フリー画像”と勘違いしてしまった」と話していました。
悪質な無断使用も イラストレーターは…
無断使用は自治体だけにとどまらず企業や個人でも相次いでいて、中には勝手に商品化するなどの悪質なケースもあります。
都内に住むイラストレーターの女性は3年前、別のイラストレーターから「あなたのイラストが洋服になって海外の通販サイトで販売されている」と連絡を受けました。
女性がそのサイトを見ると、自分のイラストがシャツや水着などにされ販売されていました。許可した覚えの全くない商品でした。
女性はSNSに自分の作品や日々の出来事を投稿していて、調べてみるとそこから無断で使用されていました。
その後、イラストレーターの団体を通じて、商品が出品されていた通販サイトに商品の削除を要請し賠償金の支払いを受けました。それ以降、定期的に自分のイラストを画像検索して無断で使用されていないか調べているといいます。
また商品化のような悪意ある無断使用のほかにも、画像が無断でネットに転載されていることもあるということです。
イラストレーターの女性
「私が1枚のイラストを描く時間は数時間から1週間くらいですが、それは10年20年もの研さんを積み重ねてきた上にある1枚です。無断使用をする多くの人は悪意はなく、その作品や作家が好きでやっていることが多いと思います。でも、本来はお金が発生する行為なので『そういうことをやっても許してくれる人なんだ』という認識が広がれば、そのイラストレーターの仕事を将来にわたって奪うことになってしまいます」
女性は、好きなイラストやイラストレーターを守るためにも、まずはルールを知って守ってほしいと話します。
「このイラストがいいなと思ったときに『でも勝手に使っちゃダメなんだよね』という知識があって、その範囲を超えないで使ってくれたら、それこそが作品と作家への本当のリスペクトだと思います。まずその作家の公式のアカウントやサイトを見て、使用のルールを調べたり本人に連絡する。作家側も『ここまではOK、ここからはやめてください』というルールをきちんと表示する。そういう関係ができていったらいいなと思います」
“ネットに投稿 せざるを得ない”
イラストレーターによる団体を主宰する森 流一郎さんも、会員からイラストの無断使用の相談を受けて対応しているといいます。
森さん自身も、新聞小説の挿絵や本の表紙などを描いていた際には、クライアントの打ち合わせから始め、取材のために全国を訪れて明治時代の建物を見たり鎧を自分で着たりと、1点を描くために1か月ほどかかることもあったといいます。
立場の弱いイラストレーターの権利向上に取り組むため、自分のイラスト業を引退して団体の活動に専念している森さん。最近では画像生成AIによるイラストの無断学習も問題になる中で、イラスト制作者への配慮が広がってほしいと考えています。
「イラストレーターズ通信」主宰 森 流一郎さん
「今の時代はインターネットでの宣伝なしに仕事を得ることはほぼありえないので、どうしてもネットにあげないわけにもいきません。一方で、無断でトリミングされたり色を変えられたり、自分の作品が無残な形に変えられると深く傷つき、精神的に追い込まれてしまう人もいます。無断使用というのは、著作権侵害という法律的な問題があるとともに、イラストレーターも深く傷つく行為だということを広く知ってほしいです」
“著作権 学ぶ機会を”
なぜ、こうした無断使用がいま相次いでいるのか。著作権について詳しい弁護士の福井健策さんは、著作権を学ぶ機会が不足していると指摘します。
福井健策さん
「無断使用は昔から問題になっていましたが、インターネットの画像検索機能の精度の向上などにより、著作権者が自分の描いたイラストがどこで使用されているかを見つけやすくなって、気が付けるケースが増えています。また、自治体や学校などでは著作権について勉強する場というのが少なく、職員の多忙感もある中でうっかり使用してしまうケースが起きやすいと考えられます。無断使用を減らしてくためにも、著作権について学ぶ機会を増やしていくことが必要です」
無断使用しないために 注意点は
では私たちがイラストを使用するときには、どんなことに注意すればいいのか。著作権に関する相談に応じる「著作権情報センター」に取材しました。
Q.イラストを利用するときに注意することは?
A.インターネット上で「無料」「フリー」などと書かれていた場合でも、必ず掲載されているサイトで「利用規約」を確認することが必要です。例えば「無料」でも「私的使用に限る」などと書かれている場合があります。
これは商用で使用したり、広報誌などで使用したりすることはできないということです。料金を払う必要などが生じます。また「何点以上の使用からは料金が発生」などと細かい使用に関する条件が書かれている場合もあります。
Q.SNSの投稿やアイコン、年賀状、社内のプレゼン作りなどで、イラストを利用したいのですが…。
A.いずれも「無断使用」への注意が必要です。例えば、社内プレゼン資料。
社内かぎりであっても、原則、企業活動の一環と捉えられて、私的使用の範囲を超えてしまうので注意が必要です。また、不特定多数の人が見ることができるSNSの投稿については、アイコンも含めイラストを無断使用してしまうと、一般的には著作権法の「公衆送信権の侵害」にもあたると考えられます。
いずれも判断に迷ったら、イラストの制作者などの著作権者に問い合わせることや、専門の相談窓口に連絡をすることが必要です。
「著作権テレホンガイド」
※著作権情報センターが運営
電話番号 03-5333-0393(受け付けは土日祝日を除く)
“正しくどんどん使ってほしい”
インターネットによって、私たちはクリックするだけで、気軽に多くのイラストを見たり、活用できるようになっています。一方で、イラストの無断使用をめぐっては、最近は画像生成AIの学習に自分のイラストが無断で使われているとして、国内外のイラストレーターなどから規制を求める声も上がっています。
著作権保護への関心が高まる中、取材に応じてくれたイラストレーターは次のようにも話していました。
「リスクがあるならイラストなんて使わなければいい…と思われるのは悲しいです。イラストという小さな幸せがある世界を守るために、正しく安全にどんどん使ってほしい」
サタデーウオッチ9(8月3日放送予定)
イラスト無断使用 記者解説で詳しく
配信期限 :8/10(土) 午後10:00 まで
サタデーウオッチ9(8月3日放送予定)
(取材:ニュースメディア部記者 石川由季 藤目琴実 廣岡千宇)
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