あまり目に触れることのない「林業」の一日に密着した。課題の一つが人手不足だが、最新機械の導入や若手人材の育成も始まり、林業のあり方そのものが変化していた。

樹齢50年超えの巨大スギを伐採!

林業従事者の朝は早い。集合時間は午前7時前。作業員の渡辺吉昭さん(39)は「朝早いのは慣れた」と笑い飛ばす。今回は福井市にある林業会社に密着した。

作業員の渡辺吉昭さん(39)
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この会社では、山の所有者らで作る森林組合から伐採を請け負っている。この日は、福井市中心部から車で約40分の山で伐採を行った。

伐採前、どの木を切るか入念に話し合う。最初に狙いを定めたのは樹齢50年超えの巨大なスギの木。「あんなに大きな木、倒せるんですか?」との問いに、「倒せます」と答える渡辺さん。斜面をすべるように移動し、スギの根元にたどり着いた。

山の斜面に悪戦苦闘する記者

取材した記者も後を追いかけるが、思うように斜面を移動できない。

渡辺さんは「アスファルトは足が痛くなる。山の中はクッションがきいて、動きやすい」と話す。

この日の伐採法は、ワイヤーを木にくくり、重機で引っ張りながら倒す「引き伐」。

この方法だと、倒れる方向を調整できる。ワイヤーをかけるため木に登るが、ハシゴの足場は10cmほどで、体を支えるのは木にくくった一本のロープだけ。

体を支えるのは一本のロープだけ…

高さ5メートルほどのところまで登ると、ワイヤーをかけた。

作業員の増澤憲紀さん(32)が手に持つのは、刃渡り約1メートルのチェーンソー。「ほんの7kgほどですから」と片手で軽々と持ち上げた。

いよいよ伐採スタート、と思いきや、切り始めたのは横にあった切り株。伐採した木が当たって跳ね返らないようにするためだ。

木の倒れる方向が変わると、大けがにつながる。また、木に傷がつくことで、木材として価格が安くなることもあるため、事前の準備は入念に行う。

スギの巨木伐採「大成功」

伐採は3つの手順で進める。まずは「受け口」と呼ばれる切り込みを入れる。続いてその反対から地面に平行にして「追い口」という切り込みをつくる。

最後に追い口に「くさび」を打ち込むことで、受け口が木の重さでつぶれ、木が倒れる。

チェーンソーで「受け口」と「追い口」をつくり、もう一人がくさびを打ち込む。

大きな音を立てて倒れるスギの巨木

開始から約5分後、スギの巨木が大きな音を立てて倒れた。想定通りの方向に倒れ、「大成功です」と2人からは笑みがこぼれた。

スギの植林は国策で始まり、福井では1950年代から本格化した。個人などが所有する「民有林」の約4割をスギが占める。樹齢50年以上となった今がまさに“収穫期”だ。撮影した林業会社では、1日に50本ほどを伐採する。

増澤さんは10年以上にわたって林業に従事しているが「僕もまだまだ勉強不足。大勢の先輩たちがいて、自分が知らない倒し方がまだたくさんある」と、日々鍛錬しているという。

正午、昼食の時間。さぞ、たくさん食べるのかと思いきや…渡辺さんは妻が作ったおにぎり2個だけ。「たくさん食べると、午後からの仕事にこたえるから」だという。

妻が作ったおにぎりを食べる渡辺さん

笹田一夫さん(44)も妻手作りの弁当を食べていたが、食事時間は15分ほどと短い。「早めに食べないと午後から気持ち悪くなる」と、すぐに食べ終えると仕事に戻っていった。

午後3時、この日の仕事を終えた。

最新機器の導入で作業時間が短縮

福井の林業従事者は約600人。55年前と比べ、4分の1に減少した。伐採が必要な樹木は山に大量に残されているが、人手不足が続き、手つかずの山林が増えているという。

そこで導入が進むのが、最新機器だ。「ハーベスタ」と呼ばれる重機は、伐採や小枝を落とす「枝払い」、用途に応じて一定の長さにカットする「玉切り」を一台でこなす。1人の操縦で作業可能で、時間は半分以下に短縮された。

また、「ドローン」を使って上空写真を撮影し、立体画像に加工することで、木の種類や伐採した面積を割り出せるようになった。これまでは人が歩いて調べていたため、作業時間は大幅に短縮された。

人手不足解消のため、行政などは若手人材の育成にも力を入れている。その一つが2016年に開校した「ふくい林業カレッジ」だ。2024年度は4人が入校した。

「ふくい林業カレッジ」に入稿した仁張彰信さん(18)

仁張彰信さんは、横浜市出身の18歳。「昆虫が好きなので、木を切ったり、植えたりして、環境を整えることをやっていきたい」と林業を志した。福井を選んだのは「高校生の時に旅行で福井を訪れ、雰囲気が気に入ったからだ」という。電車好きで「えちぜん鉄道が好き。写真もたくさん撮っている」と笑顔を見せた。

研修で使うチェーンソーの重さは約5kg。林業カレッジに入校したばかりの時は、重くて扱いに手間取ったが、2カ月間の筋トレの結果、「なんとか作業できるまでになった」と話す。

仁張さんの研修期間は1年間。働く上で基本となる技術や知識を習得する。

「そこでたたいてみいや!」

一人前に育てるため、厳しい指導が山の中に響く。仁張さんはくさびを打ち込む際、木の周りを何度も移動した。

指導者は「なんでそんなに足を動かさないとあかんのや。動かさずにたたけるところがあるやろ!」と声を荒げた。「動かずにそこでたたいてみいや!たたけるやろが!」と、何度も細かく動きを指導していた。

厳しい指導には訳がある。林業の労働災害発生率は、全産業平均の約10倍、産業別では最も高い。生徒たちへの指導は、けがから身を守るための“愛のムチ”だったのだ。

仁張さんは福井の林業会社への就職を目指す。厳しい研修だが、一度も弱音を吐くことはなかった。将来の目標を聞くと、「自分が切った木が公共施設などに使われてほしい。そうなったら胸を張れるかも」と力強く答えた。

2024年10月、福井では「第47回全国育樹祭」が開かれ、森を守り育てる大切さを啓発する。現在、関連イベントが催され、幅広い世代で山の仕事への関心が高まっている。

(福井テレビ)

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