HPVワクチンキャッチアップ接種の再周知を求める記者会見を開いた江連千佳さん(左)ら=東京都千代田区で2024年7月25日午前10時、肥沼直寛撮影

 子宮頸(けい)がんを予防するHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの接種機会を逃した女性へのキャッチアップ接種率が伸び悩んでいる。国が定期接種対象者への個別通知を控えていた期間に未接種だった人は今年度末まで無料で接種を受けられるが、制度対象者の半数が知らないのが実情だ。初回接種の期限が9月に迫る中、制度を国に要望した当事者らは「知らないまま機会を再び逃してほしくない」と危機感を強めている。

 「当事者が声を上げて得た権利だということを知ってほしい」。江連千佳さん(23)=東京大大学院=は7月25日、厚生労働省で開いたキャッチアップ接種の再周知を訴える記者会見で言葉に力を込めた。江連さんは2021年3月にキャッチアップ接種を求める署名を田村憲久厚労相(当時)に出した学生の一人だ。

 子宮頸がんは性的接触によるHPVへの感染が主な原因で、20代から患者数が増え始める。国内では年間1万人超が診断されているが、ワクチン接種で原因ウイルスの8~9割の感染を防ぐことが期待できる。ワクチンは計3回の接種が必要になる。

 HPVワクチンは、国内では09年に初めて承認され、国は10年から自治体に補助金を出して小学6年~高校1年相当への接種を開始。13年4月には原則無料の定期接種とした上で、はがきなどで接種を案内する「積極的勧奨」を始めたが、接種後に運動障害など副反応の訴えが相次いだ。これを受け、国は2カ月後に積極的勧奨を中断した。その結果、勧奨中断前の初回接種率が7割を超えたのに対し、中断後に対象年齢を迎えた人では1%未満に落ち込んだ。

 江連さんも定期接種の対象期間中の接種を見送ったが、高校2年時にニュージーランドへ留学した際に受けた、生徒一人一人の人生のために知識を伝える性教育が再考のきっかけになった。19歳の冬に接種を受けたが5万円の費用が掛かり、負担の重さを実感した。

 「がんになるリスクがあること、それを予防するワクチンがあることを知る機会が必要だ」。20年春、複数の学生団体と連携して国にキャッチアップ接種を求める署名活動を始めると、10カ月で約3万筆が集まった。

厚生労働省が作製したHPVワクチンのキャッチアップ接種について知らせるリーフレット=同省ホームページから

 この間、欧米などでの大規模研究では健康被害と接種との明確な因果関係は確認されなかった。国内でも約3万人が回答した名古屋市の調査で、「関節やからだが痛む」など日常生活に支障がある症状が出る割合に接種の有無で有意な差は認められなかった。国は積み重ねられた知見や要望を受けて22年4月、積極的勧奨を再開。3年の期限でキャッチアップ接種も始めた。

HPVワクチンの接種スケジュール

接種完了には6カ月

 ワクチンには「サーバリックス」「ガーダシル」「シルガード9」の3種類があるが、いずれも3回の接種に6カ月程度かかり、制度終了までに終えるには今年9月までに初回接種を受ける必要がある。しかし22年度のキャッチアップ対象者の初回接種率は約1割にとどまっている。23年度の厚労省のアンケート調査では、対象者の48・5%が制度を知らないと回答。認知度の低さが浮き彫りになった。

 江連さんは要因について、対象者の大学進学や就職を挙げる。個別通知は住民票がある自治体から郵送などで届くが、対象者が引っ越し後も住民票を実家に残したままだと直接情報を得ることは困難になる。同じ調査では、04年度以前に生まれた人のうち案内を見たという人は53・5%で、定期接種期間内の人(68・3%)を下回った。

 厚労省はインターネット広告のほか、7月に関東や近畿などの7大学で広報キャンペーンを展開するなど、夏休み中の接種検討を呼び掛ける。だが、他の大学には個別で接種促進への取り組みを依頼するにとどまる。江連さんは「大学や職場での周知により力をいれてほしい」と訴える。

 ただ過去の経緯から健康被害への不安は今なお根強い。埼玉医科大の高橋幸子医師(産婦人科)は「ワクチンを打たない選択肢もあってもよい」とした上で、「ワクチンの効果は高いが、がんを100%防げるわけではないので定期的に子宮がん検診を受ける必要がある。打たない選択をした人には2年に1度の検診をより確実に受けてもらいたい」と強調する。【肥沼直寛】

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