トイドローンを操縦し、風船を割る早さを競う「ドローンファイト」。コントローラーさえ操作できれば、車椅子の使用者でも他の参加者と同じ条件でプレーできる=日本ドローンファイト協会提供

 免許や資格を必要としない小型の「トイドローン」を操り、風船を割る速さを競う日本発祥のスポーツ「ドローンファイト」の人気が広がっている。

 コントローラーさえ扱えれば、年齢や性別、障害の有無などに関係なく、同じ条件で対戦できるハードルの低さが魅力。普及を進める一般社団法人「日本ドローンファイト協会」は毎年8月8日を「トイドローンを楽しむ日」に制定し、来年には世界大会の開催も目指している。

ルールは簡単

 扱うのは、手のひらに収まる約10センチ四方、重さ30グラム前後のドローン。プロペラがガードされているため安全性も高い。前後左右と上昇・下降や旋回を操作できるコントローラーを使って浮上させ、的に付いた風船を先に割った方が勝ちというシンプルなルールだ。幅2メートル、奥行き4メートル程度のスペースに専用の風船の高さを合わせれば、リモートでの参加もできる。

 4日に行われた全国大会へのシード権が与えられるチャレンジクラス大会では東京都や長野県、熊本県など全国8カ所をオンラインで結んで行われ、約40人が参加した。

 進行役の「バルーンゴー!」の合図とともに、各参加者のドローンが二つ並んだ風船を目がけて次々に飛んでいく。そのうち一つの風船が割れると、モニターからは「決まったー」「早い!」などと歓声が上がり、勝者もガッツポーズ。ユーチューブでライブ配信され、進行役が盛り上げながら、各地を一つにしていく。

「ドローンファイト」で使う小型のトイドローン。手のひらサイズで重さ30グラム前後。プロペラにはガードがあり、当たってもけがをしにくいという=日本ドローンファイト協会提供

 「ルールは単純で初心者でも操縦できるが、風船を割るには、的の中央に当てる技術が必要。だからこそ攻略できた時に爽快感があり、ハマりやすいんです」。そう語るのは、大会で進行役を務め、ドローンファイトの考案者でもある同協会代表の鹿股(かのまた)幸男さん(48)だ。

 少年時代からおもちゃ好きで「考えたアイデアをおもちゃにしたい」と玩具業界で働いた経験がある。十数年前にドローンの存在を知り、夢を具現化するには「これだ!」と思い浮かんだ。構想を基にルールや使用する器具を考えて2019年に特許を出願。21年には「誰でもできるスポーツ」として広げようと、同協会を立ち上げた。

コロナ禍きっかけに広がった交流

 現在の競技人口は300人。23年までの2年間に5歳から80代までのべ1万人が体験した。コントローラーが使える人であれば同じ条件でプレーでき、23年の競技ランキング1位は、中学1年生(当時)だった。中には半身不随ながら車椅子に乗って片手で操縦しながらプレーする常連や、人が集まる会場に抵抗感のある不登校気味の子供もリモートで参戦している。

 参加の敷居を低くした「リモート対戦」は、実は当初は想定していなかった。普及開始直後に新型コロナ禍になり、大会開催も危ぶまれた。そんな中、関係者の自宅をつないだオンライン会議をするうちに、同じ条件で、遠隔でも対戦できることに気づいた。

 22年に初めて開いた全国大会には、リモート会場を含め全国20カ所から200人以上が参加。「『苦肉の策』が受け入れられたことで逆に、幅広い世代や立場の人が交流できる新しい『コミュニケーションツール』になると気づいた」と鹿股さんは振り返る。

 課題はトイドローン自体の認知不足だ。免許や登録も不要で遊べ、1機5000~1万円程度と比較的安価に入手できる手ごろさが魅力だが、飛行できる場所などに細かい法的規制がある一般のドローンとの差異が認識されておらず、国内の玩具メーカーの扱いが少ないのが現状だ。そのため、鹿股さんは各地で体験教室や定期大会を開催するなど、競技とドローンの魅力を広める拠点を地道に開拓している。

なぜ、8月8日が記念日なのか?

 8月8日を「トイドローンを楽しむ日」に定めたのは、「88」がトイドローンの形状に似ており、ドローンが英語で「ハチの羽音」を意味することにちなんだ。毎年、記念日の前後に関連イベントを企画する予定で、今年は、4日のチャレンジクラス大会で勝ち抜いた人たちも参加する全国大会の「ドローンファイト夏選手権」を11日に開く。オンライン会場を含め全国約20カ所が会場になる。

ドローンファイトを考案した「日本ドローンファイト協会」の鹿股幸男代表=本人提供

 他のドローンスポーツも紹介しながら、工夫次第で誰でも新しい遊び方を創出できるトイドローンの魅力を伝えていくという。

 次なる鹿股さんの目標は、普及当初から企画していた世界大会の開催だ。10カ国計500人規模を目指しているといい、「さらに国境を超えたコミュニケーションの場にしていきたい」と話している。【稲垣衆史】

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