日本の高齢者の3分の1が、生きているうちに「財産を使い切りたい」と思っているのに、実際にはあまり取り崩されず、保有資産がますます高齢者に偏っている――。内閣府が今月発表した経済財政白書はこうした傾向を浮き彫りにした。

 白書によると、高齢者の遺産に関する考え方についての調査(2023年)で最も多かったのは、「使い切りたい」という回答で、その割合は34%だった。次いで「老後の世話の有無にかかわらず、財産を残したい」が31%、「老後の世話を条件に財産を残す」が15%、「社会、公共の役に立つようにしたい(遺贈)」は3%だった。

 その半面、老後に備えてため込んだ金融資産が、80歳を過ぎてもあまり取り崩されていない現状もある。

 年齢別でみた世帯あたりの金融資産の平均額は50代までは年齢が上がるごとに増え、60~64歳でピークの1838万円に達する。60代後半からは減少に転じるものの、「取り崩し」のペースは緩やかで、85歳を過ぎても1500万円超の金融資産を保有し、減少率は1割半にとどまった。

 その結果、高齢世帯に金融資産が「滞留」している姿も浮かび上がる。

 白書では日本の総務省調査と米国のFRBの調査を比較。年代ごとの金融資産の保有割合をみると、日米いずれも現役世代(40歳未満及び40~54歳)の保有割合は3割弱にとどまり、55歳以上の高年齢の層が金融資産全体の7割以上を保有していた。だが、70歳以上の層が保有する資産の割合は米国の約3割に対し、日本は約4割と上回る。

 また資産の構成比を見ると、日本人が持つ資産の約7割が「預金」なのに対し、米国は預金が1~2割、株など有価証券が3~5割。日本の「リスク回避」の傾向が際立っている。

 また高齢層の保有資産の取り崩しが少ない背景には、日本の高い労働参加率もある。65~74歳の労働参加率(22 年時点)は、男性51.8%、女性33.1%、75 歳以上は男性16.9%、女性7.3%だった。

 65~74歳の男性の労働参加率は欧米主要国より20%以上も高い。

 ためこんだ資産はどうなるのか。白書によると、被相続人(遺産を残す側)の7割超が80歳以上(2019年時点)なのに対し、相続人(遺産を受け取る側)も60歳以上が5割超(22年時点)となっており、「老老相続」で財産が引き継がれている実態が明らかになった。

 白書では、「資産移転が高齢者間にとどまり、子育てへのニーズが高い若年世代への移転が進まない課題がある」と指摘。資産が有効に使われるために①経済成長に対する期待を引き上げる②教育資金の一括贈与にかかる非課税措置などで資産移転を後押しする③長生きリスクに対して公的年金制度の持続可能性を確保する④「貯蓄から投資」の流れを進め、若年期から収益性の高い資産形成を促す、という対策を挙げている。(編集委員・森下香枝)

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