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“怠けているのでは”と言われたけれど…
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【調査結果】1年半後も“20人に1人”が症状
“怠けているのでは”と言われたけれど…
「やりがいをもって働いていたんです」
こう語るのは、千葉市に住む50代の女性です。
3年前、新型コロナに感染し、けん怠感や脱毛などの症状が続きました。
かかりつけのクリニックなど複数の医療機関を受診しましたが、原因不明のまま。
インターネットで新型コロナの後遺症外来を設置する大学病院を探し、そこでようやく「コロナ後遺症」と診断されました。
当初は強いけん怠感があり、布団から起き上がることもできず自宅から出られない日も少なくなかったといいます。
都内の企業で営業部門の管理職を務めていましたが、新型コロナの後遺症で長期間の休職を余儀なくされています。
労災保険は受け取っていますが、収入はコロナに感染する前の3分の1程度まで減少し、貯金を切り崩すなどして生活をつないでいるということです。
感染から3年以上がたった今も、けん怠感や体の痛みなどが続いていて、定期的に都内の後遺症外来で治療を受けていますが、仕事に復帰できる具体的なめどは立っていません。
後遺症に悩む女性
「やりがいをもって働いていた職場だったので、一緒に働いていた人たちとも離れなければらないのは、とてもつらいです。後遺症は見た目ではどこまでつらいのかわかりづらく『怠けているのではないか』と言われることもあります。こんな病気には、もう誰にもなってほしくないし、人生が変わってしまうような状態にある人がいることを多くの人に知ってほしいです」
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【調査結果】1年半後も“20人に1人”が症状
こうした中、厚生労働省の研究班は、大阪府八尾市と札幌市に住む人たちに、新型コロナの後遺症に関する調査を実施しました。
「後遺症の有無」や「どれくらいの期間続いているか」を調べ、小児と成人のあわせて約1万7000人から回答を得ました。
<対象>
1.大阪府八尾市
2021年3月の「第4波」から、オミクロン株が拡大した2022年の「第6波」までに感染した人
2.札幌市
2020年の「第1波」から2022年の「第7波」までに感染した人
<有効回答者数(成人)>
八尾市 4333人 札幌市 2731人
その結果です。
感染から3か月後も何らかの症状が続いている人は、成人の場合、八尾市で「14.3%」、札幌市で「20.9%」にのぼりました。
さらに、どちらの自治体も、成人の感染者の約5%の人は「1年半後」も症状が続いていることがわかりました。
症状は「睡眠障害」や「集中力の低下」、それに「疲労感」や「けん怠感」、「嗅覚障害」に「脱毛」などが多く見られました。
感染から1年半以上も症状が続いている人に、仕事への影響を尋ねたところ「休みがちになった」と回答した人が八尾市で7.1%、札幌市で11.6%となり、症状がない人よりも割合が高くなっています。
厚生労働省は「オミクロン株であっても後遺症を発症する可能性はあり、十分な感染対策を続けてもらいたい」としています。
新型コロナの後遺症については詳しい原因がわかっておらず、厚生労働省は引き続き、調査を進めるとともに、治療法の開発や予防に向けた研究も進めることにしています。
開始10分で30人から診察依頼
後遺症の診療にあたっているクリニックには、長期間症状に悩まされている患者が今も大勢訪れています。
東京 渋谷区のヒラハタクリニックはコロナ後遺症の外来を設置し、これまでに約7000人以上の診察や治療にあたってきました。
院長の平畑光一医師によりますと、流行の主流株がオミクロン株になって以降、新型コロナに感染し重症化する患者の割合は減っているということですが、他の株と比べて感染が広がりやすく、後遺症の診療依頼は現在も相次いでいるということです。
クリニックでは症状に応じた薬を処方したり、運動療法などの指導を行ったりしていて、多くの患者は症状が改善する傾向にあるということですが、中には数年にわたって、倦怠感などの症状が続いているという人もいます。
クリニックを訪れるのは長期間、重い症状が続いている患者が多く、これまでに診察を受けた人の7割近くが、休職など仕事に影響が出ているということです。
平畑医師は、地域によって差がありますが、後遺症を適切に診療できる医療機関が不足していると懸念しています。
取材を行った日も、オンライン診察の予約受け付けを開始した午前9時からの10分間に、全国の30人の患者から診察の依頼が寄せられていました。
「ノウハウ共有が進んでいない」
平畑医師によりますと、こうした患者の中には地元で医療機関を受診したものの医師から「治療法はわかっていない」などと言われ、満足な診療を受けられなかったとして、相談を寄せてくる人が少なくないということです。
平畑医師は、一部の医療機関に患者が集中しないためにも、後遺症に関する最新の知見や治療法などを、医療従事者どうしで共有する仕組み作りが求められていると指摘しています。
ヒラハタクリニック 平畑光一院長
「以前に比べるとコロナで重症化する割合は低くなったが、後遺症で悩まされる人はいまも多く、まだまだしっかり警戒しなければならないウイルスだと思う。一方で、後遺症の診療については医療従事者への講習や情報の集約など、ノウハウの共有に向けた取り組みがなかなか進んでいないのが現状だ。現場だけではできないこともあるので、そこは国が中心となって対策を進める必要がある」
こうした課題について厚生労働省は、今回の調査や最新の知見を踏まえて、年内に後遺症の診療の手引きを改訂するなどして、各地の医療機関が適切な診療を行えるよう情報共有を進めていきたいとしています。
コロナ後遺症の支援制度と相談先
「後遺症」は、症状によっては生活に大きな影響を与えるため、必要に応じて支援制度を活用することができます。厚生労働省は主な支援策をホームページで公表しています。
労災保険
仕事や通勤が原因で新型コロナに感染し、その後遺症で療養が必要などと認められる場合には、労災保険の給付の対象になります。詳しくは職場のある地域を管轄する労働基準監督署に相談してください。
健康保険
仕事や通勤以外の原因で新型コロナに感染し、仕事をすることが困難になった場合、仕事に就くことができなかった期間などの要件を満たせば健康保険制度を活用して傷病手当金が支給されます。支給を受ける要件や申請の手続きなどは、加入している健康保険組合などに相談してください。
障害年金
後遺症によって日常生活が著しく制限を受けるなどしている場合、法令で定められた障害の程度などの要件を満たせば、障害年金の対象となります。地域の年金事務所のほか、相談窓口に電話で問い合わせることができます。番号は「0570-05-1165」です。
身体障害者手帳
後遺症の症状によって視覚や聴覚、声に障害のある状態になった場合などには、要件を満たせば身体障害者手帳が交付されます。申請方法など詳しい情報は各地の市区町村の担当部署に相談してください。
精神障害者保健福祉手帳
後遺症によって一定程度の精神障害の状態にあると認定された場合には、要件を満たせば精神障害者保健福祉手帳が交付されます。申請方法など詳しい情報は各地の市区町村の担当部署に相談してください。
生活困窮者自立支援制度
就労や住まいなどに関する生活の困りごとに対しては、地域の自立相談支援機関が相談に応じています。
新型コロナ患者数 現在の状況は?
厚生労働省によりますと、7月28日までの1週間に全国およそ5000の医療機関から報告された新型コロナの患者数は、前の週から4669人増えて7万2003人となりました。
また、1つの医療機関あたりの平均の患者数は14.58人で前の週の1.07倍となりました。前の週から増加が続くのは12週連続となります。
都道府県別では多い順に
▽佐賀県が31.38人
▽宮崎県が25.98人
▽熊本県が25.46人
▽長崎県が24.94人
▽愛知県が23.25人などとなっていて、
39の都道府県で前の週より増加しています。
7月28日までの1週間に、全国およそ500の医療機関から報告された新たに入院した患者の数は4579人で、前の週と比べて736人の増加でした。
厚生労働省は全国の流行状況について「引き続き増加傾向が続いている。例年、お盆明けが感染のピークになるので帰省などで大人数が集まる際などには特に体調に留意して基本的な感染対策をとってほしい」としています。
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