栃木県と言えば誰もが思い浮かべるのが宇都宮市のギョーザ。これに対し、隣接する鹿沼市で4年前からシューマイを名物にしようとする取り組みが広がっている。どうしてシューマイなのか、どんな味が楽しめるのか、現地を歩いた。(重政紀元)

 鹿沼市の玄関口ながら閑散とした東武鉄道の新鹿沼駅の駅前広場。そこで存在感を示しているのがシューマイの自動販売機だ。

 市内の飲食店などが開発した冷凍シューマイ5種が手軽に買える。取材日は平日だったため購入する人には会えなかったが、週末などは行楽帰りの客に人気だ。

 市内を歩くとあちこちに「かぬまシウマイ」の赤いのぼりがはためく。

 取り組みが始まったのは2020年4月。豪雨や台風による被災、コロナ禍を受けて落ち込む市内の活性化のため、鹿沼商工会議所が企画した。

 なぜシューマイなのか? 理由は100年以上前にさかのぼる。「シウマイ弁当」で有名な崎陽軒(横浜市)の初代社長、野並茂吉氏(1888~1965)=旧姓渡辺=が現在の鹿沼市北部出身だった。野並氏はピアノや教育資金を寄付するなど故郷の人との交流を続けた。

熱烈な要請に崎陽軒は

 企画の中心になった同商工会議所の水越啓悟さん(52)によると、当初の案は、野並氏の偉業を記念するシウマイ像をつくること▽市内で崎陽軒のシウマイ弁当を売ること――の二つだった。

 半年かけた熱烈な要請に、シウマイの元祖である崎陽軒は像の制作・設置を許可した。だが、弁当は工場からの距離や横浜のローカルブランドであることなどを理由に断った。

 一方で、崎陽軒側から「シューマイでまちづくりをしてみたらどうか」という思いもよらぬ提案があった。崎陽軒独自の表記「シウマイ」を使うことも認めてくれた。

 水越さんは「まちの新たな魅力になる」と市内の飲食店を説得。「唐突だ」など批判もあったが、構想時に20ほどだった参加店は現在、飲食店、スーパーを中心に70を超えた。

 各店は味や外観に工夫を凝らす。具材に市内の農産物を使うほか、パンに挟んだ「シウマイドッグ」、う巻きのウナギの代わりにシューマイを入れた「シウマイ巻き」、シューマイそっくりなシュークリーム「シューうまい」など独自色が強い。

 飲食店だけではない。タクシー会社は参加店舗を巡るツアーを用意し、車両にシューマイをかたどるあんどんを載せる。バス会社は宇都宮市のギョーザと併せて食べ歩きができる乗り降り自由の乗車券「食べ歩きっぷ」を販売するなどして協力する。

 市内では昨年末、約10店のシューマイを食べ比べられるイベント「かぬまシウマイ博覧会」も初開催。市内外から4千人超が押し寄せ、あっという間に完売した。今年も11月23日に開く予定だ。

 22年12月に同商工会議所が民間の研究所に依頼した調査では、かぬまシウマイの企画による初年の経済効果は5億5千万円を超えた。

 水越さんは「シウマイの定義などの縛りを設けなかったことで参加しやすくしたのがよかった。崎陽軒さんの協力がなければここまでの広がりはなかった」と振り返る。

 ただ、成功の理由は崎陽軒だけではないようだ。同商工会議所ではこれまで、自転車での食べ歩きや「サラダそば」など幾つもの仕掛けを試みては再考を繰り返し、挫折もあった。その中で、飲食店側は挑戦に貪欲(どんよく)になる素地が育ったという。

 意外に見える成功には、陰の努力がある、と感じた。

鹿沼市の飲食店のシウマイ

 そば割烹(かっぽう)日晃「そばの実海老(えび)シウマイ」

 鹿沼市は香り高い在来種で知られる全国屈指のソバの産地。ソバの実を水に漬けたうえで蒸して柔らかくしてトッピングしている。エビのぷりぷりに、玄そばのプチプチの食感がアクセントだ。「ソバの実は自家栽培したものを冷蔵熟成させ、おいしさを保っている」(社長・奈良部浩一さん)

 みっちゃん蕎麦(そば)「鹿沼ニラそばシウマイ」

 そばと共に名産なのが、栽培面積が全国トップクラスというニラ。ニラの中でも茎の部分を使うことでしゃきしゃきとした食感を強く出している。「もともと店の看板メニューの『にらそば』とともに人気です」(店主・柏崎光子さん)

 創菓工房Matsuya「シューうまい」

 シューマイそっくりのシュークリーム。肉のような質感を出すのは砕いたマロングラッセ。それを包む皮の部分は和菓子に使う求肥(ぎゅうひ)、グリーンピースはカボチャの種で再現した。「納得いくまで半年かかった。凍らせたまま食べてもおいしいです」(社長・熊倉雄一さん)

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