台湾の半導体製造大手・TSMCの熊本進出で課題の一つとなっている半導体関連の人材育成をめぐる動き。熊本県内で先頭に立って人材育成に取り組む、熊本大学独自の教育プログラムと、その先の展望について取材した。

データサイエンス学ぶ情報融合学環

熊本大学の『東京エレクトロンイノベーションプラザ』で授業を受ける学生たちは、大学の創立以来、75年ぶりに新たに創設された学部組織『情報融合学環』にこの春入学した1年生だ。

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この日は必修の『データサイエンス倫理』の授業。データサイエンスとは、世の中にあふれる膨大なデータを、数学など様々な手法を用いて読み解き、新しい価値を見いだす学問だ。幅広い視点が必要なことから、熊本大学は『文理融合』、文系・理系の区分にとらわれない形で人材を育てる。

この日は、ChatGPTなどの大規模言語モデルを使った、いわゆる『生成AI』を活用する際の課題について、実際に生成AIを使ってグループで話し合う。学生は「材料(データ)は世界にいっぱいあるので、今までより発展できる経済政策を見つけられる」と、学ぶデータサイエンスに期待を寄せる。

情報融合学環では熊本大学で唯一、入試の際に女子枠(8人)を設けた選抜も行っていて、68人の学生のうち、女性が約3分の1の22人いる。

また、文理融合とはいえ、数学や物理、化学などの知識が必要なため、文系の学生向けの補修教育も行っていて、学生は「入試を文系型で受けたので(入試に)数Ⅲはなかったが、入った後に数Ⅲを勉強しないといけなくて(補修で)先生に質問できるので助かる」と、大学のサポートに喜んでいた。

熊本大学では全国の大学で初めてアメリカ政府と連携し、英語教育プログラムの開発を行っていて、この日の情報融合学環の授業でも後半は英語で授業を行った。学生は「高校の授業では使わないネーティブな英語の授業が、データサイエンス倫理の授業に含まれていて鍛えられる」と、手ごたえを感じているようだ。

TSMCや東大、台湾の大学などとも連携

また2024年度に工学部には半導体に特化した半導体デバイス工学課程が新設され、1年生23人と高専などから編入した3年生21人が学んでいる。この日は、3年生必修の『デバイス電子回路』の授業が行われていた。

編入した3年生21人のうち19人が高専からの編入で、「元々高専にいて卒研内容と似ていたので半導体(デバイス工学課程)を選んだ。半導体の学科にいるので、その業界に行けたらいい」と、高専から編入した学生は将来に期待を寄せた。

2024年年4月にTSMCと協定を結んだ熊本大学。2025年度からTSMCや子会社のJASMの技術者による授業が、半導体デバイス工学課程で行われる予定だ。また、国内の半導体研究で先進的な東京大学や東北大学などとも連携を進めている。

熊本大学の宇佐川毅副学長は「2023年夏には東京大学工学系の研究室の分室を学内に設置した。(学生が)最先端の技術を身につけて社会に巣立つようにしている」と話した。

また、宇佐川副学長は「TSMCとも関係が深い(台湾の)陽明交通大学とは半導体に関しての人材育成や議論を深めたいと協定を結んだ」と話し、陽明交通大学と半導体の人材育成や研究に向けた協定を締結。また、陽明交通大学を含めた台湾の4大学と産学が一体となった教育プログラムの構築を目指す。

『半導体・情報数理専攻』の新設へ

半導体の人材育成を進める熊本大学の次の一手は大学院の新設だ。

宇佐川副学長は「実は半導体分野の多くは大学院の修士課程の修了者がボリュームゾーンで、熊本大学から進む学生も修士課程を終えている。一つの大きな大学院にまとめて学生同士が異分野で学び合う。シナジー効果を期待した大学院の設計をしようとしている」と次の構想を話す。

熊本大学では半導体業界のニーズから情報融合学環や工学部の半導体デバイス工学課程の大学院として、『半導体・情報数理専攻』を2025年度設置する計画だ。

宇佐川副学長は「半導体デバイス工学課程のように理系の物理や化学を基礎にした分野はもちろん必須だが、情報融合学環はデータサイエンスをベースにしているので、数学や英語が得意なら文理融合型の入試体制を整えている。文系でも理系でも活躍できるような教育プログラムにしている」と、文理融合での半導体の人材育成をアピールする。

半導体の人材育成に向け、取り組みを加速させる熊本大学。国内外の大学やTSMCなどの企業、アメリカ政府とも連携した、新しい教育プログラムが動き出している。

(テレビ熊本)

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