「ゴリラの先生」として知られる総合地球環境学研究所(京都市)の山極寿一所長(京都大学前学長)が秋田県立能代高校を訪れ、生徒らと交流した。「人類にとって学びとは何か-豊かな未来に向けて-」と題して講演し、ゴリラとの比較や、人類が豊かな社会性や共感力を身につけることができた理由、学ぶことの重要性について語った。【高橋宗男】
講演会は7月11日に開かれ、同校全校生徒のほか、保護者や市民らも耳を傾けた。
なぜ人間に「思春期」があるのか
山極氏によると、人類は直立歩行によって森からサバンナに出て行った。肉食獣に襲われ子どもを殺されたので多産が必要になり、お産の間隔を短くするために乳児期が短くなった。オランウータンの乳児期は7年、チンパンジーが5年、ゴリラも3~4年だが、人間は1~2年だ。
離乳の時期が早まると、乳歯の子どもが食べられるものを運び、手のかかる子どもを育てる協力が必要になる。共食と共同保育によって、共感力が発達したと考えられるという。
また、脳の成長速度も人間の特徴だ。人間は生まれる時はゴリラの赤ちゃんと頭の大きさがほぼ一緒。ゴリラは4年かけて脳の大きさが2倍になってストップするが、人間は生後1年で2倍になり、12~16歳にゴリラの3倍の大きさの脳になる。
人間は脳の発達を優先するために本来は身体の成長に使うエネルギーも脳に使うので、霊長類の中で最も身体的成長が遅いという。その結果、脳の大きさが完成する12~16歳以降にやってくるのが「思春期スパート」と言われる時期だ。エネルギーが身体の成長に振り向けられ、成長スピードが急速に上がる。ただ、心身のバランスが崩れたり、事故に遭ったり、大人とのトラブルに巻き込まれたりする危険度が上がる脆弱(ぜいじゃく)な時期でもあるという。
「学ぶのに重要なのはこの時期」
山極氏は「人間は多産と脳の成長を助けるために、離乳の時期と思春期スパートという弱い時期を抱え込んだ」としつつ、「そのために共同保育が進んだので、人間の子どもは共感力を高め、他の動物が持たない能力を身につけることになった」と説明。
そのうえで、生徒たちに向け「君たちは今まさに思春期スパートの時期。学ぶのに重要なのはこの時期だ」と呼び掛けた。さらに「脳の大きさが完成しても25歳ぐらいまでは、他者の心の状態を解釈して文脈に応じて自分の心の中で理解する能力を成長させる必要がある」と、社会性を身につけるために学び続けることが必要だと訴えた。
一方で、AI(人工知能)の登場によって「人間の社会性が失われつつある」と指摘。「人間は五感によって言葉を再構成して身体に植え付け、コミュニケーションを取ってきたが、AIは情報だけで結論を出してしまう。人間は適応力が高いから、AIに判断を任せてしまい、身体を置き忘れてしまう可能性がある」などと危惧した。
山極氏は「世界は変化に満ちていて、学校教育では学べないことがたくさんある」と指摘し、「自分が出合った変化にどうやって対応したらいいのか、自分の能力でどう答えたらいいのかを、自覚して学ぶ機会が必要だ」と生徒らに語りかけた。
同10日には同校視聴覚部員や図書委員、近隣の中学生が質問する会も開かれた。山極氏は「本というのは、自分とは違う時代を生きた人からのメッセージ。自分が経験していないことを学ぶ本当にいい機会だ。あまり急がず、じっくり読んで、好奇心を鍛えてほしい」と話した。
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