「木の駅プロジェクト」を振り返る丹羽健司さん=名古屋市内で

 山林の間伐材を出荷して、地域で使える通貨に交換する「木の駅プロジェクト」が始まって15年。11日の「山の日」を機に、仕掛け人で各地で仕組みづくりのアドバイザーを務めたNPO法人「地域再生機構」の丹羽健司さん(70)=名古屋市=に、普及状況や林業の現場が抱える課題について聞いた。 (聞き手・有賀博幸)  -「木の駅」は全国に広がった。  植林された山を相続しても山のことを知らない“素人山主”に、自分の山に目を向けさせたい、との思いから始めた。現在、東北から九州まで約100カ所あり、このうち山主や林業者らが実行委員会方式で運営しているのは50カ所ぐらい。仕組みや運営のノウハウはすべてオープンにしてきた。  この間「木の駅サミット」が各地で計8回開催された。参加者同士、取り組みの報告や意見交換をし、運営に生かしている。基礎はでき、私の役割は済んだかなと思っている。  -間伐材を地域通貨と交換する仕組みを採り入れた。  地域通貨を使うルールを決め、協力してくれる店を選ぶことで商店主を巻き込み、林業と連携できる。地域通貨はその土地でのみ通用するから、お金が外に出ていかず、町や村の中で回転させた分だけ経済価値を生む。  面倒を考えたら地域通貨なんか発行しなくていいが、木の駅で一番おいしい部分は地域通貨であり、「手放すな」と言ってきた。山だけの話でなく、持続可能な地域づくりや自治再生への営みだ。  -林業従事者の高齢化が進む一方、若年者の就業は徐々に増えている。  新規に林業に携わる人の多くは「Iターン」の若者で、放置された山を何とかしたいと、高い志を持ってこの業界に入ってきている。各地の木の駅の事務局もIターンした人が担い役になっていることが多い。今や地域の林業は、よそ者を思いやりで受け入れているというより、必要としている。

◆若い担い手支えて

 -構造的な課題もある。  林業に就いてせっかく技術を身に付けても、子どもが高校や大学に入る頃になると教育費がかかり、みんな辞めていく。暮らしが木材の低価に押し込められてしまっており、皆がモヤモヤしている。彼らが誇りを持ち続け、以前の仕事に戻らなくて済むよう、国も林政の施策として本気で手当てをしなくては。林業従事者が増えないと、国内の山林は再生不可能になる。  農産物などの国際的なフェアトレード(公正貿易)のように、国産材のフェアトレードのような仕組みがあってもいい。流域内フェアトレードの木で家を建てたら有利になるとか。外材の輸入一辺倒できた大手企業に対しては、国内林業の実態をもっと伝える必要がある。

<にわ・けんじ> 1953年、奈良県生まれ。信州大農学部卒。農林水産省に入省し、2010年に東海農政局を早期退職。東海豪雨(00年)を機に設立された「矢作川水系森林ボランティア協議会」の代表を務め、市民参加型の「森の健康診断」に10年間取り組む。山里文化研究所副理事長、総務省地域再生マネジャー。

<木の駅プロジェクト> 2009年に岐阜県恵那市で開始。軽トラックに積める程度の長さで間伐材を出荷でき、素人山主でも参加しやすい。交換する地域通貨は、間伐材1立方メートル(直径20センチ×3メートルの丸太8本見当)で4千~6千円程度。地域内の商店や飲食店などで流通させる。買い取り額は相場より少し高く、不足分は森林環境税などを活用して賄う。集荷した間伐材は、チップ用に販売されたり、ボイラー燃料用のまきやペレットに利用されている。




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