31文字の中に思いを込める短歌は、SNSに作品を投稿するなど若い世代にも人気となっている。秋田県大仙市の高校でこの夏、短歌の全国大会に向けて奮闘する生徒の姿があった。

夏休み中の大曲農業高校太田分校。1年生の高橋奈々美さんと山方萌佳さんが登校してきた。2人が真剣な表情で書き始めたものは短歌だ。

2人は、全国の高校生たちが短歌を詠み競う「短歌甲子園」への出場が決まり、即興で短歌を作ることができるよう準備していた。

この日のお題は「雨」。言葉の選び方などを相談しながらそれぞれ短歌を作る。また、大会では審査員から質問が出されるため、自分の作品について説明する力も鍛えている。

高橋奈々美さんが完成した短歌を披露する。
「雨宿り 花一輪に傘そえて 一言かけて帰る君の背」

2人の指導にあたっている能美政通先生が「作る上で、工夫したポイントなどがあれば教えてください」と問いかける。

高橋さんは「傘を『差す』とか『置く』とかではなく、近くにそっと添えるという言い回しに変えた」と説明した。

続いて、山方萌佳さんが完成した短歌を披露。
「雨が降り 花や草木がシャワーする さっぱりしたね木木の囁(ささや)き」

山方さんは「葉っぱが揺れた時の感じを『ささやいている』と、ちゃんと聞こえていないような表し方をした」と工夫した点を話した。

2人が短歌を本格的に始めたのは、国語の授業がきっかけだった。先生に勧められて自作の短歌で大会に応募したところ、見事予選を通過。全国大会への出場が決まった。

山方さんは「いろいろな言い回しを短くできるから面白いなと思った。選ばれたと報告が来たときはびっくりした。初出場なので、まずは楽しんでくることを大事にしたい」と意気込む。

高橋さんは「考えるのがすごく楽しい。小中学校では短歌を作る機会がほとんどなかったので、その時はあまり興味がなかったと思う」と振り返る。
 
短歌を作る上で意識しているのは、景色を目にして感じたことをノートに書き留めること。インスピレーションの源は日常の至る所に散らばっている。

高橋さんは「いいなと思ったふとした瞬間の一番最初に思った気持ちとかを、短歌の中で表すことを大事にしている」とこだわりを教えてくれた。

山方さんは最近作った短歌をスマートフォンに保存していた。
「見る景色 違うと思う歳のせい 小学校と高校の今」

たまたま立ち寄った思い出のバス停が、人生のステージによって違って見えた。そんな感覚を率直に表現している。

山方さんは「あまり使わない言葉を使うのがポイントとしてあるかもしれない。話が得意じゃなくても、ちょっとした分量で思ったことを伝えるのが、短歌の良い部分だと思う」と短歌の魅力に触れた。

山方さんの母も「普段は見せない笑顔で友達としっかり話せていることが、母としてもうれしかった。高校生の思い出に残る、まだ1年生だがこれからに向けて楽しんできてほしい」と娘の全国大会出場を喜ぶ。

能美先生は「文芸部とかで活動しているわけではないので、型にはまらず、自由に伸び伸びと表現できるところが強みではないかと思う。まずは表現することの喜びを全身で感じてほしいということと、いろいろな作品を作る中で、自分の表現の形を見出してもらえたらうれしい」と2人を激励する。

全国大会は、8月16~18日まで岩手県盛岡市で開催され、全国から予選を勝ち抜いた20校が参加した。結果は、1次リーグ敗退で決勝トーナメントは逃したが、短歌を愛する同世代との交流も深めた。

2人の心に刻まれた大きな青春の1ページ。うれしいこと、悔しいこと、いろいろな感情を紡いでくれる短歌とともに高校生活は続く。

※高橋奈々美さんの「高」は「はしご高」

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