イラスト・中村 久美

子宮は洋梨を逆さにしたような袋状の臓器で、胎児が入る上部の「子宮体部」と、膣につながって子宮の入り口にあたる「子宮頸(けい)部」に分けられます。

子宮頸部にできる子宮頸がんはユニークな特徴を持っているがんです。感染型の代表で、発症原因のほぼ100%が性交渉に伴うヒトパピローマウイルス(HPV)の感染です。

「セックスデビュー」の若年化などによって、子宮頸がんが若い世代に急増しています。「上皮内がん」を含めると、発症のピークは30代後半で「マザーキラー」の異名を持ちます。ほとんどのがんは細胞の老化が原因のため、年齢とともに増えていきますが、子宮頸がんは若い世代に多いという特徴があります。

このがんは、発がんのメカニズムがもっとも解明されているがんの一つです。発がんの原因となるHPVには200以上のタイプがありますが、16型、18型に代表される「ハイリスク型」が子宮頸がんの他、肛門がんや咽頭がんの原因となります。

ハイリスク型HPVの多くはE6、E7という2つの異常なタンパク質を合成します。E6とE7はそれぞれ、p53とRbと呼ばれる「がん抑制遺伝子」が作るタンパク質の働きを不活性化します。

p53遺伝子は細胞のがん化を防ぐ司令塔で、「ゲノムの守護者」とも呼ばれます。Rb遺伝子は最初に発見されたがん抑制遺伝子で、「網膜芽細胞腫」の原因遺伝子です。不要な細胞分裂を行わないように調整する機能を持ちます。2つのがん抑制遺伝子の作用がハイリスク型HPVの感染によって抑えられることで子宮頸がんが発するリスクが高まります。

ただし、HPVはありふれたウイルスで、日本女性の約8割が感染経験を持ちます。発がんに至るのは感染者のうちわずか0.1%程度にすぎませんが、ウイルスの感染がなければ子宮頸がんを発症することはまずありません。このため、セックスデビューの前にHPVに対するワクチンを接種することで、発がんを予防することが可能です。

スウェーデン女性167万人に調査した研究の結果、17歳未満で接種した場合は子宮頸がんのリスクが1割程度にまで低下していました。一方で17〜30歳の接種ではリスクの低下は5割程度にとどまりました。このワクチンはHPVの感染を予防できますが、感染したウイルスを排除する作用は持たないからです。

日本でも小学校6年生〜高校1年生の女子を対象に2013年4月から法定接種となっていますが、「副反応」が大きな社会問題となり、余波はいまだに続いています。

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