スーパーや米穀店でコメが品薄になっている。前年収穫されたコメは高温障害による品質悪化により、売り物にならない商品が増え、例年より在庫が少なかった。さらにインバウンド(訪日外国人客)の急増など想定外の複数の要因が重なったことが響いている。だが、温暖な地域では8月中旬から新米の出荷が始まっており、9月上旬ごろからは流通も安定する見通し。販売店は「過剰に備えなくても大丈夫」と呼び掛けている。
奈良市内のスーパーでは、コメの陳列棚が空の状態が目立つ。店員によると「7月ごろから入荷数が大きく減り、8月に入ると一層厳しくなった。お盆の頃からは入荷ゼロの日も多い。入ってきても1日10袋程度で、あっという間に売り切れる」とため息をついた。
県北部の米穀店では「お米売り切れました。近日入荷予定!」の札を掲示し、新規客への販売を止めている。この米穀店は「固定客の分を仕入れるのがやっとの状態。普段は来ない客の来店や問い合わせがかなり増えているが、在庫の余裕がなく、残念ながら断っている」とこぼす。仕入れ数量は春先から制限されるようになり、8月以降は「前年実績分まで」と区切られ、新規客に回せなくなったという。
農林水産省が2023年11月に発表した同年産のコメ(水稲)の全国作況指数(平年=100)は、平年並みの101。しかし米穀店によると、昨夏は猛暑による高温障害に見舞われたため「売り物」にならない商品も一定の割合で含まれているという。「暑過ぎると稲穂は成長するが中身が詰まっていない状態ができてしまう。農水省は実績を平年並みと発表しているが、実際の流通量は平年の水準を下回っている」と指摘する。
米穀店が異変を感じたのは3月ごろ。希望する量を仕入れられなくなりその後も徐々に数量が減っていった。在庫が前年割れする中、春先からインバウンドが増えたことで全国の観光地で飲食店のコメ消費量が想定を超えたことが原因とみられる。
品薄状態は夏ごろから顕著になった。8日に宮崎県沖・日向灘地震が発生し、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が出されて15日まで注意が呼び掛けられたことを受け、家庭で備蓄するための購入が急増したことなども影響したようだ。県内のコメ卸業者によると「在庫不足の時期に地震が発生したのが響いた」と話す。
消費者の負担は増している。何度も買い物に行ってようやくコメを見つけても、価格が上がっているためだ。7月以降、需要が供給を上回ったことを背景に仕入れ値が一気に約2割高騰し、そのまま販売価格に転嫁されているのだ。スーパーで買い物をしていた4人家族の40代女性は「コメが足りず、弁当が作れない状況が続き、毎日1~2食は麺類に変えている」と話す。「今は確保するのが第一で、物さえあれば高価でも買う」が、この高値ではたとえ買えても節約せざるをえないと肩を落とす。
品薄の現状を変える頼みの綱となるのは新米だ。8月下旬から高知や宮崎などの新米の入荷が始まり、今後は売り場に並ぶ数が少しずつ増えそうだ。米穀店は「在庫が厳しい状況は9月上旬まで。それ以降は緩やかに安定に向かう」と予測する。だが、高止まりした価格がどうなるかは「見通しが付かない」という。【山口起儀】
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