日本産科婦人科学会(日産婦)は28日、受精卵の段階で重い遺伝性疾患の有無を調べる着床前診断について、対象を拡大した新たなルールの下で実施を認めた病名を初めて公表した。72件の申請に対して、神経の難病や遺伝性の目のがんなど8割にあたる58件が認められた。これまでも対象外だった成人後に発症する病気や、延命できる治療法がある病気も含まれた。
着床前診断は、体外受精させた受精卵の細胞の一部を取り出し、遺伝子を調べる。対象の病気が発症しない受精卵を選んで子宮に移植する一方、病気を発症しうる受精卵は破棄するため、命の選別との意見もある。
日産婦の以前のルールでは「成人になる前に日常生活を強く損なう症状が出現したり、死亡したりする」重篤な遺伝性疾患が対象だった。2004年に初めて承認され、15年度までに計120件が認められた。
22年4月に始まった新ルールは、「原則」との文言を条件に加え、成人以降に発症する病気にも拡大した。治療法がないか、患者の負担が大きい治療が必要なことも条件にし、関連学会に意見聴取するなど審査体制を充実させた。
今回公表されたのは23年中に審査されたもの。申請72件はこれまでの平均の約3倍だった。認められた主な病気は、遺伝性の目のがん「網膜芽細胞腫」や、細胞の中でエネルギー産生が低下して異常が起こる「ミトコンドリア病」、免疫不全となる「細網異形成症」など。
難病情報センターなどによると、網膜芽細胞腫は小児期の発症である一方、治療によっては10年生存率が9割とも言われる。球脊髄(せきずい)性筋萎縮症は30~60代の男性で発症することが多い。先天性赤血球形成異常性貧血1型は、治療法の発達で死亡することはまれになってきているという。
一方、申請のあった筋萎縮性側索硬化症(ALS)など9件が審査継続となった。認められなかったのは3件で、同じ病気でも判断が分かれた事例もあった。判断の理由は、認められなかった事例について「重篤性の定義を満たしていない」と「情報不足」を示しただけだった。審査で考慮した個別の理由は非公開としている。また申請取り下げは2件。
記者会見した加藤聖子・日産婦理事長は「病名で承認と不承認を決めているわけではない。医学的、また夫婦の生活背景などを含めて審査している」と述べた。【寺町六花、渡辺諒】
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