本による偶然の出合いで情報感度を向上
セガサミーホールディングスは2004年のセガとサミーによる経営統合によって誕生した持ち株会社です。現在の主な事業領域は次の3つです。まず、家庭用ゲームから、ゲームセンターにおけるアミューズメント機器、トイ、アニメーション制作といった映像に至るまで多種多様な「遊び」を提供するエンタテインメントコンテンツ事業。そして、パチンコ・パチスロの企画・開発から販売までを手掛ける遊技機事業。さらに、宮崎県のフェニックス・シーガイア・リゾートや、韓国初の統合型リゾート(IR)施設となるパラダイスシティなどの運営を手掛けるリゾート事業です。
私自身はセガに新卒で入社し、ゲームクリエイターとして『AZEL-パンツァードラグーンRPG-』『スペースチャンネル5』など多くのゲーム開発に携わりました。現在は、セガサミーホールディングスで、グループ会社全体のコミュニケーションを促進させるための企画・運営をする部署に所属しています。
現在のオフィスにはグループ会社が集結する形で、18年に移転しました。そのときに、「社員が気軽に利用でき、情報感度が高まるような空間を作ろう」と、社員食堂の「JOURNEY'S CANTEEN」内にライブラリースペースとして「THE LIBRARY」を設置しました。
社員なら誰でも利用でき、コミュニケーションエリア「FREEPORT」からコーヒーなどのフリードリンクを持ってきて、THE LIBRARYでゆっくり本を読む──といった過ごし方ができます。「昼休みは社食で20分、THE LIBRARYで40分」「出社日には必ず立ち寄る」という人もいます。他の部署の社員と雑談したり、気になるテーマの本を読んだりすることで、確実に情報感度が高まり、それが仕事にも生かされていると感じています。
情報感度を高めるためのコンテンツがなぜ本だったのかというと、それ以外のコンテンツであれば、すでに社員が自分自身で触れにいっているからです。動画でもSNS(交流サイト)でも、興味があることは自分で追いますよね。その一方で、最近は「仕事帰りに書店に立ち寄る」ことが少なくなり、本を買うにしてもネット注文が多いのではないでしょうか。そうなると、自分の興味のあるジャンルにしか触れず、リアル書店で「買おうと思っていた本の隣にあるものも面白そう」といった偶然の出合いが少なくなります。普段、自分では選ばなかったもの、今まで興味がなかったものに出合える=情報感度を高められるのがTHE LIBRARYの意義です。
THE LIBRARYを開設する際は、編集工学研究所に選書をお任せしました。1500冊ほどを選んでいただいたところ、古典あり、名著あり、漫画あり──と、幅広い内容に「さすが、プロ」と感嘆しました。
その後は、私のいるコミュニケーション推進課のメンバーが中心になって、毎年本を買い足しています。入れ替えや追加を行った後、社内イントラサイトに新規追加図書のお知らせを出すと、喜びの声や要望などのコメントが入ることもあります。追加図書を選ぶに当たって、セガサミーグループの方針やミッション・パーパスである「感動体験を創造し続ける〜社会をもっと元気に、カラフルに。〜」に合致していればジャンルは不問。現在の蔵書は2000冊ほどに増えています。
ミッションに基づいた7つの書棚
そんなTHE LIBRARYのユニークな点は、セガサミーグループのミッションピラミッドにひもづいている7つの書棚があることです。
1つ目の棚「生命は創造の源(LIFE)」
順番に紹介すると、1つ目の棚は「生命は創造の源(LIFE)」。もともと「創造は生命」がセガの社是であり、感動体験を創造していくことがセガサミーグループのミッション・パーパスでもあります。
そこで、生命の源である海や宇宙の写真集『ファー・アウト 銀河系から130億光年のかなたへ』(マイケル・ベンソン著/檜垣嗣子訳/新潮社)、『 すばらしい海洋生物の世界 』(アレックス・マスタード写真/カラム・ロバーツ著/武田正倫監修/北川玲訳/創元社)など、イマジネーションを刺激する本をそろえています。THE LIBRARYでは写真集など、興味があってもなかなか自分では買わないような本も手に取ることができます。
2つ目の棚「世界を遊び尽くす!!(WORLD)」
2つ目の棚は「世界を遊び尽くす!!(WORLD)」で、アウトドアやボルダリングの本や、世界の遊園地を紹介した『世界遊園地大全 想像を超える、世界の楽しい遊園地』(グラフィック社編集部/グラフィック社)、世界中の楽園・秘境を撮影した『 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景 』(詩歩著/三才ブックス)などの本が並んでいます。多種多様な遊びを提供する企業であるからこそ、自分たちも遊ぶ楽しさを知っておきたいところです。
3つ目の棚「人類はクリエイター(HISTORY)」
3つ目の棚は「人類はクリエイター(HISTORY)」。ここには人類が創ってきた歴史を伝える本として『 サピエンス全史(上)(下) 』(ユヴァル・ノア・ハラリ著/柴田裕之訳/河出書房新社。現在は文庫版が販売中)や、マンガでは古代ローマの知識人を描いた『 プリニウス 』(ヤマザキマリ、とり・みき著/新潮社)を並べています。
また、『 朽ちゆく世界の廃墟 』(自由国民社)といった写真集もあります。廃墟をながめていると、昔ここで人々が過ごしていたんだな、それが時代とともに廃れ、今は植物がからまってまた違う建築物となっている──とイマジネーションが湧いてきます。
4つ目の棚「未来を積極進取する(TECH)」
4つ目の棚「未来を積極進取する(TECH)」はロボットやAI(人工知能)、ブロックチェーンなど、テクノロジーがどんどん進化する未来を妄想するエリア。マンガでは、『 AKIRA 』(大友克洋著/講談社)、『 攻殻機動隊ARISE 眠らない眼の男 Sleepless Eye 』(藤咲淳一脚本/大山タクミ漫画/講談社)といった名作から、最近のロボットマンガも入れています。もともと「積極進取」はサミーの社是であり、ここまで成長してきた原動力にもなっています。積極進取の精神のもと、人々の感動体験を「創造」していくのがセガサミーグループのミッションでもあります。
書籍、マンガを境界なくそろえているのもTHE LIBRARYの特徴です。貸し出しはしていないので、毎日お昼休みに1巻ずつ読んでいる社員もいます。
5つ目の棚「経済と文化を結ぶ(ECONOMY)」
5つ目の棚は「経済と文化を結ぶ(ECONOMY)」。ここが一番、いわゆる「企業の本棚」らしいコーナーかもしれません。『 ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則 』(ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著/山岡洋一訳/日経BP)、『 予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 』(ダン・アリエリー著/熊谷淳子訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)といったビジネス書の名著から、『 インベスターZ 』(三田紀房著/講談社)など経済や投資の仕組みを学べるマンガまで幅広くそろえています。
やはり我々がいくらクリエイティブな仕事をしても、経済と結び付かねば企業としては成り立ちませんので、重要なコーナーです。
6つ目の棚「Be a 革新者(HUMAN)」
6つ目の棚は「Be a 革新者(HUMAN)」。「Be a Game Changer〜革新者たれ〜」は当社のビジョン(ありたい姿)です。我々が目指す姿である各界の革新者──『 スティーブ・ジョブズ ペーパーバック版 1、2 』(ウォルター・アイザックソン著/井口耕二訳/講談社)、『 イーロン・マスク 世界をつくり変える男 』(竹内一正著/ダイヤモンド社)、『 SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男 』(ジェフ・フレッチャー著/タカ大丸訳/徳間書店)などの本が並んでいます。
また、ここには『 北斗の拳 究極版 』(武論尊原作/原哲夫漫画/コアミックス)、『 頭文字D 』(しげの秀一著/講談社)など当社の遊技機の原作であるマンガがあるのも特徴ですね。ほかにも『 鬼滅の刃 』(吾峠呼世晴著/集英社)、『 呪術廻戦 』(芥見下々著/集英社)、『 東京卍リベンジャーズ 』(和久井健著/講談社)など人気作品が並んでいます。これらの作品の登場人物は、さまざまな意味で革新者といえるでしょう。
7つ目の棚「Ultra Creative(ART)」の棚
7つ目は「Ultra Creative(ART)」。ここは天才アーティストが築いた世界を体感するエリアです。『 ジブリの立体建造物展 図録<復刻版> 』(スタジオジブリ編/トゥーヴァージンズ)などのほか、『世界のグラフィックデザイン』シリーズ(DNP文化振興財団)を多数そろえており、さまざまな有名アーティストの作品をすぐに見ることができます。それらを実際に手に取り、観賞できるのは創造性を刺激するのに役立ちます。
すばらしい海洋生物の世界- 著者 : カラム・ロバーツ
- 出版 : 創元社
- 価格 : 4,180円(税込み)
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茂呂真由美セガサミーホールディングス 総務本部 コミュニケーションサービス部 コミュニケーション推進課。セガにデザイナーとして新卒入社。家庭用ゲームソフト、Webサイト運営、携帯電話、スマートフォンアプリ開発、SNS(交流サイト)、インナーコミュニケーション活動などに幅広く従事。現在はセガサミーホールディングスで、グループ会社全体のコミュニケーション推進活動を企画、運営。ゲームで手掛けたタイトルに『Jリーグ プロサッカークラブをつくろう!』『AZEL-パンツァードラグーンRPG-』『スペースチャンネル5』など。
(取材・文:三浦香代子、写真: 品田裕美)
[日経BOOKプラス2024年1月18日付記事を再構成]
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