2017年の九州北部豪雨で被災したJR日田彦山線の一部で、バス高速輸送システム(BRT)が開業して8月28日で1年がたった。「ひこぼしライン」と愛称が付けられた新路線は新たな観光客の流れを生み、好調なスタートを切った。一方で、沿線地域の人口減少や少子高齢化は今後さらに進む見通しで、専門家は「持続的な運営が今後の鍵となる」と指摘する。
8月上旬、福岡県添田町では、夏の日差しに照らされ、紫色の車両が線路跡の専用道を走っていた。彦山駅前で飲食店を営む女性(42)は「隣村からBRTに乗って食事に来てくれるようになった。今までとは違った交流が生まれている」と笑顔で語る。BRTが停車する添田町の道の駅「歓遊舎ひこさん」の佐藤健二副支配人も「BRTは話題になり、観光がてら大分方面から添田を訪れる流れができている。店に立ち寄る人も増えた」と話した。
BRTは、被災して不通となった日田彦山線の一部区間の復旧策としてJR九州が導入した。日田彦山線の添田(添田町)―夜明(大分県日田市)と、久大線の夜明―日田(同)の約40キロを約1時間半で結ぶ。停車場は鉄道時代の3倍の36カ所で、運行本数は10本多い32便。今年3月にはダイヤを改正し、一部の便のルートを見直して日田市の高校への通学などに利用しやすいようにした。
利用状況は好調だ。JR九州によると、利用者数は8月5日に10万人を超えた。1日平均約290人で、被災後の代行バス時代の5倍となる。鉄道の輸送密度(1キロ当たりの1日平均乗客数)に換算すると、添田―日田で164人。区間が異なるため単純比較はできないが、被災前の鉄道時代の添田―夜明(131人)より33人多い。
当初は電気バス(25人乗り)4台とディーゼルバス(56人乗り)2台の計6台態勢だったが、観光客や学生の利用が多く、一度に乗せきれないこともあるため、ディーゼルバス1台を4月に追加した。運行するJR九州バスの納所(のうしょ)英孝・添田支店長は「たくさんのお客さまに利用していただいている。安全を大切にしてこれからも利用しやすい路線にしていきたい」と手応えを語る。
一方で、利用状況は地域によって差があるのも実情だ。福岡県東峰村はBRTの専用道と村の中心部に距離があり、他地域のように病院や学校、商業施設などの近くを通っていない。JR九州が公表した23年度の駅別乗車人員では、添田駅や日田駅の利用者は1日当たり80人近くいるが、東峰村は村内にある筑前岩屋、大行司(だいぎょうじ)、宝珠山の3駅を合計しても40人近くにとどまった。
そこで、村は利便性を高めるため、2月から無料通信アプリ「LINE(ライン)」などで予約できる乗り合いタクシーの運行を開始。BRTの停車場から、村の中心部や伝統工芸品の小石原焼の窯元などがある地区などを移動できるようにした。
さらに、村外からの観光客らを呼び込もうと、村は木造の宝珠山駅について、総工費約1億円をかけて7月から改修している。デザインの監修はJR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」を手掛けた水戸岡鋭治さんに依頼。キッズルームやカフェを併設し、近くに小石原焼などを紹介するミュージアムの建設も進める。
沿線では人口減少や少子高齢化が進む。東峰村の担当者も「人口は右肩下がりで減る一方なので、子どもの遊び場やカフェを作って、村を訪れる人を増やし、移住や定住につなげたい」と話す。
福岡大の辰巳浩教授(交通計画)は「鉄道時代より便数が増え、利用者も増加しているのでうまくいっているのだろう。公共交通が復活した意義は地域にとって非常に大きいが、今後は地域の移動手段の確保と、持続的な運営の両立がポイントになる。BRT以外の交通手段との連携の他、住民自身が自分事として地域の公共交通を守る意識を持つことが必要だろう」と指摘した。【下原知広】
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