「これから縁組する子が苦しまなくていい社会にしたい」と話すみそぎさん
みそぎさんが、生みの親は別にいると知ったのは、高2の冬。父が勧める大学の合格に向け受験勉強中、どうしても解けない問題があった。しびれを切らした父が「俺の子じゃないから解けないんだ」と口を滑らせた。母も動転し、みそぎさんは「この人たちも自分との関係に葛藤を抱えていたんだ」と知った。大学進学後、1人の時間が増え、「自分が生まれたことで、生みの親の人生を壊したのでは」と考え、苦しく感じるようになった。 「自分のことを知りたい」。戸籍に記されたかつての住所を訪ね、児童相談所に自分の情報を開示請求した。資料には、生後間もなく紙袋に入った状態で、電話ボックスに置かれているところを発見されたと伝える新聞記事もあった。乳児院には、運よく当時の職員がいて話を聞くこともできた。ただ、出自を知っても心は晴れなかった。 自分と同じ立場の人を探したが、当事者団体は見つからない。2019年に上京して就職。読み方の語呂合わせで「養子の日」とされる、翌年4月4日に特別養子縁組家庭支援団体「Origin(オリジン)」を設立した。月1回、養子と養親がそれぞれオンラインなどで交流する中、養親も相談先が見つからずに孤立し、支援機関も手探りで活動していると知った。 そこで、それぞれの課題を持ち寄り、話し合いを公開して国に届けようと「特別養子縁組当事者による全国フォーラム」を厚生労働省に提案。昨年2月から同省(現・こども家庭庁)の事業として実現した。志賀さんと当時2歳の長男=本人提供
実行委員の1人で5歳の養子を育てる志賀志穂さん(49)=さいたま市=は「縁組後に公的支援はほぼなくなった」と話す。里親として育てていた時に参加した里親会の交流サロンの対象からは外れ、子育て支援サービスも使えなくなった。血のつながりのある家族と変わらない温かな生活の中、子どもの葛藤と向き合う場面は突然やってくるといい、「不安も共有できるよう、養親同士でつながりたい」と期待する。 今年2月の第2回フォーラムには約250人が参加した。「どんなネットワークをつくればいいか」と「それぞれの声を聞こう」の二つのテーマに分かれ、グループごとに意見交換。参加した養子の男性は「なかなか出会えない当事者と知り合えた」、養親の女性からは「わが家の課題と重なり、勉強になった」などの感想が寄せられた。 全国養子縁組団体協議会代表理事の白井千晶・静岡大教授は「NPOや児相が運営する養親のためのサロンは点在するが、ない地域もある」と地域差が大きい現状を指摘。「(生みの親が別にいるという)事実は一度告知すれば終わりではなく、子どもが成長する過程で悩み、ずっとつきあっていくもの。米国や英国などは縁組後も専門機関のサポートが充実しており、国内でも継続的な支援が必要だ」と取り組みの必要性を強調する。<特別養子縁組> 親元で暮らせない子どもを家庭環境で養育するための制度で、戸籍上も養父母が実親扱いとなる。実親との法的関係が残る普通養子縁組や、一時的に預かって養育する里親制度とは異なる。2016年の児童福祉法改正で、こうした子どもたちの養育について「施設から家庭へ」との方針が打ち出されたが、22年の特別養子縁組の成立件数は580件にとどまり、3年連続で減少している。
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