台風10号は動きが遅く迷走したこともあり、静岡県内に約1週間にわたり大量の雨を降らせ土砂災害など大きな被害をもたらしました。

そこで静岡大学防災総合センターの牛山素行 教授に今回の台風について話を聞き、今後の対策などについて考えていきたいと思います。

ノロノロと迷走の原因は?

まず、小塚気象予報士のが今回の台風の動きについて解説します。

「ノロノロ台風」とも呼ばれた今回の台風10号は進路や速度の予想が日ごとに変わっていきました。

8月22日と26日に発表された予想進路図を見比べても大きく違っています。

なぜ迷走し、観測史上最大の雨量となってしまったのでしょうか?

小塚恵理子 気象予報士:
台風は自分で進むことが出来ず 周りの風によって進路が決まりますが、(今回は)期間を通して日本付近上空の風が弱い状態が続いていました。

南の海上から当初は北上する予想でしたが実際には大きく北西に進みました。これは上空の寒冷渦、反時計回りの風に引っ張られたためです。

その後、高気圧の縁を回って進みましたが、四国から先は高気圧が西側と東側に分かれるような形となり、どちらの高気圧に乗るか分からず進路がハッキリしませんでした。

台風と高気圧を回る湿った空気が静岡へ

小塚恵理子 気象予報士:
また、今回の台風では沖縄より手前にある時から静岡県内は雨の影響を受けました。

台風を回る湿った空気と東にある高気圧を回る湿った空気が合流する形で、県内に雨が集中しました。

8月27日の雨雲レーダーを見ると台風から離れた静岡に雨が集中していることがわかります。

そのため雨量が多くなり新幹線の運転見合わせなどが相次ぐこととなりました。30日の金曜日までこのような状態が続きました。

小塚恵理子 気象予報士:
8月31日には台風が近づいて来て台風周辺の非常に湿った空気が流れ込みました。

雨雲レーダーを見ると台風本体の雨雲の影響で県内は広く激しい雨となりました。

熱帯低気圧に変わったあともあまり場所を変えずに北上したため、湿った空気が流れ込み雨が続きました。

平年8月の3~4倍以上の記録的な雨量

このように台風の影響で県内には1週間にわたり雨が続きました。

8月26日からの積算雨量は浜松・磐田が500mm以上、静岡・熱海が700mm以上、天城山は990mmとなっています。

これを平年の8月、1か月分の雨量と比較すると平野部で3~4倍以上の記録的な雨量となりました。

1週間にわたる大雨でこうした記録的な雨量となりました。

台風から非常に離れた場所で長期の大雨

台風の進路には県民も振り回されましたが、ここまで迷走するケースは珍しいようです。

また、台風から離れた場所でも大雨への警戒はこれまでも言われてきましたが、今回のように長期間にわたる台風警戒は経験がなかったように感じます。

-牛山さんはどのように感じましたか?

静岡大学防災総合センター・牛山素行 教授:
皆さん台風の中心位置に注目しがちですが、中心位置で強いのは風で、雨は中心から離れた所で降るのが一般的です。

台風の中心から離れた所で大雨が降るのは珍しくないのですが、今回は「非常に離れた所で、しかも長期化した」というのが特徴的です。

また、今回は 「過去最大の雨量」と言われていますが、これは「長時間(72時間)の雨量が過去最大となった地点があった」ということです。

一方で、短時間の降水量は記録的ではなかったわけです。仮に短時間の降水量が強ければもっと大きな被害が出た可能性があります。

それから天城山の長時間(72時間)の過去最大の降水量は1100mmですので、それと比較すると今回の雨量(天城山990mm)はそこまでいっていません。

つまり降水量は絶対値で見るのではなく、地域ごとにその降水量がどうなのかということを見る必要があります。降水量の絶対値で危険かどうかを判断するのは難しい。

その点では「キキクル」を活用するのが良いと思いますし、改めて「キキクル」の有用性を今回認識しました。

情報を活用し自ら判断することが重要

長期間の警戒が続く影響で、浜松市では土砂災害警戒のため8月27日から9月2日朝まで一部地域で「避難指示」が出ていました。

一方で静岡市や牧之原市は川の氾濫のおそれがある時に「緊急安全確保」を発令しました。

-こうした自治体の対応については、どう感じましたか?

静岡大学防災総合センター・牛山素行 教授:
「避難指示」が長期化してしまったのはしょうがないですね、国のガイドラインに従って「避難指示」を出していますから、浜松市が変なことをしたわけではありません。

今回の「避難指示」の長期化は、私たちひとりひとりが情報を活用してどう行動するか判断していくことの重要性を強く感じさせられました。

また、「緊急安全確保」というのは「一番強い避難指示」ではなく、「もはや避難所に駆け込む場合ではなく、その場(自宅)でもいいから安全を確保してください」という意味合いです。

今回、静岡市は非常に局所的な範囲で「緊急安全確保」を出しましたが、水位計を見て河川が溢れる危険性のある一部地域に対して出したもので、標準的なやり方だと思います。

ただ、「緊急安全確保」を乱発するのは良くないですから、基本は「避難指示」という情報を活用していくのが重要だと思います。

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