多くの学校で新学期が始まって1週間余り。ちょっと無理しているかなという子も、そうじゃない子も、夏の疲れが出始めるころでもある。ひきこもりに詳しい精神科医の斎藤環・筑波大客員教授は夏休み明けで心に不安を感じる子どもたちに、「学校は無理して行くところではない」と助言する。(藤原啓嗣)  -休み明けは学校に行き渋る子どもがいます。  私の助言は一つだけです。「行きたくなければ無理せず休んでください」しかないです。不登校はストレスに対する防衛反応。自分を守ろうとしている子どもに対して、学校に行けと言うのは間違っています。  コロナ後にひきこもりや不登校が増えたと感じています。多くの人は外出の自粛やリモートでの活動を要請された状態に慣れてしまいました。対面での社会活動が再開すると、人とじかに会わねばならず、一部の人にはそれが負担となってストレスを感じています。長期休み明けに不登校が増えるのと同じ理由で、普通の心理状態です。  「ひきこもってけしからん」とか「なまけている」とか、偏見を持たずに若い人たちに接することができれば、ひきこもりは減ると思います。日本は少々のやんちゃをしても、頑張る人が認められる価値観が強い。私は「ヤンキー文化」と呼んでいますが、頑張っていないように見えるひきこもりに対しては無駄に厳しいのではないでしょうか。  -3月で筑波大社会精神保健学の教授を退任しました。  2013年に大学に着任してすぐ「オープンダイアローグ(OD)」というアプローチ法を知り、発信に力を入れました。投薬や入院になるべく頼らず、医療チームが患者の幻覚や妄想を否定しないで受け止め、患者やその家族らと対話を続けることを目標とします。意思決定の全ての場面に患者が参加します。  大学教授として「オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)」という組織を作ったり、国際学会で発表したりしました。ODNJPは研修やワークショップで人材を育成しています。大学の研究室でも准教授や助教、院生が関心を持って探究して、筑波大はODの拠点の一つに育ったと思います。  -長所は。  ほぼすべての精神疾患に有効だという点です。従来の治療は患者の悪いところを探しますが、ODは人間関係を修復して、対話を継続するという精神のケアが主目的です。こうして対話を継続していると、副産物のように回復が起こります。  私が10月につくば市で開業するクリニックでもこのアプローチ法を柱とします。精神科で投薬に偏る治療を改めたい。長期にわたる多量の投薬が患者のQOL(生活の質)を下げているという研究もあります。私も必要な時は投薬しますが、対話によるケアの効果を主張したい。  私自身も臨床スタイルを改めました。若い頃に患者との関係が深くなりすぎて苦労したので、患者と距離を取ろうとロボット化した。もう一度人間らしさを取り戻すためにもODは重要な意味がありました。  -改めて、子どもを持つ保護者へ助言を。  保護者は「学校に行きなさい」と言わずに、普段通りに子どもと会話して、接してほしいです。不登校だからといって急に子どもの好きなことなどを探るのではなく、普段から子どもの姿や活動に目を配り、把握するといいと思います。     ◇  斎藤環さんは、11月から本紙健康面の「メディカル・トーク」で連載を始める予定です。

<さいとう・たまき> 1961年、岩手県生まれ。精神科医、「オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン」の共同代表。専門は思春期や青年期の精神病理学。診療に基づくひきこもりの支援や治療、啓発活動で知られる。映画や音楽など幅広い分野の批評家としても多数の著作を発表している。

<オープンダイアローグ> フィンランド発の精神医療の治療法。医師や看護師、精神保健福祉士らでつくる医療チームと患者や家族が症状などについて対話を重ね、改善を目指す。同国では統合失調症の治療に効果を上げて、公的な医療サービスに組み込まれている。




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