重度障害者の経済的負担を考慮し、北海道と市町村が医療費を助成する「重度心身障がい者医療給付事業」を巡り、改善を求める声が上がっている。精神障害1級のみ入院費用が給付対象となっていないからだ。「差別だ」として当事者らは批判する。
道の基準によると、事業は、1~3級(3級は内部障害のみ)の身体障害者手帳や1級の精神障害者保健福祉手帳を持つ人、重度の知的障害者が給付対象。所得制限があり、費用は道と市町村で折半する。通院や入院の自己負担額が最大で1割となるように助成するが、精神障害1級のみ、入院費用が給付対象となっていない。
精神障害者が入院生活に偏らない「地域移行」の方針を取る国の姿勢を踏まえ、道は制度を設計したと説明する。制度は診療科を問わないため、精神障害の当事者や支援者の不満につながっている。
札幌市の40代男性は「精神障害者を区別する差別だ」と訴える。男性の50代の妻は1級の精神障害がある。2年ほど前に高血糖で救急搬送され、1週間の入院が必要となった。精神疾患による入院でなかった。医療費は10万円以上。工面できず、実母に頼った。
自身も2級の精神障害がある男性は当時、障害者雇用で働いていたが、娘との3人暮らしは日常生活を維持するだけで精いっぱいの経済状態だった。何とか事なきをえたものの「すごく悩んだし、苦しかった」と言う。
実態を踏まえ、独自に給付対象を精神障害1級の成人にまで拡大する市町もある。ただし、室蘭市や別海町など、ごく一部に限られる。札幌市はこの8月から給付対象を広げた。男性は「今は安心感がある。いつ誰が精神障害に悩むかは分からない」と話した。
一方、居住地によって、いまも給付対象とならない当事者は多く存在する。NPO法人・札幌市精神障害者家族連合会の菅原悦子会長は「当事者や家族は現状で諦めていることが多く、声高に求められないのが実態。道に一律に認めてほしい」と求めている。
全国的にみると、埼玉県は1級の精神障害者の精神科以外の入院についても、助成対象とする。精神障害者の支援に取り組むNPO法人・コミュネット楽創(札幌市)の担当者は「本来は避けたい精神疾患での長期入院の助長を招かない形で、理想的だ。精神障害だからといって助成対象とならないのはおかしいと思う」と指摘する。
この事業を巡っては、今年3月の道議会定例会で、道が「道内の市町村の取り組み状況を注視する。医療費助成制度は全国一律の制度であることが望ましく、他の都府県とも連携し、粘り強く国に要望していく」と答弁した。道の担当者は、引き続き独自の対応も検討するとしている。【谷口拓未】
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