薄暗い海の深場に、蛍光レモンイエローの光がにじむ。イソギンチャクの仲間「オオカワリギンチャク」だ。プランクトンなどを捕らえる触手が揺らめくさまは、実に個性的。しかも自ら移動するという。地元ダイバーは「同じ個体が翌日に岩の反対側にいる。『夜歩き』しているのか」といぶかしむ。
2004年に新種登録された。生息水深が深いため、限られた海域だけで確認されている。和歌山県みなべ町の大群落が消滅したり、各地で新たに見つかったりしている。今回撮影した愛媛県愛南町では、23年に発見された。
国内で唯一、オオカワリギンチャクを展示公開している京都大白浜水族館で、飼育を担当する加藤哲哉さん(52)は、「よりよい生息環境を求め動いているのでしょう。水温の影響では」と分析する。同館の飼育槽の設定水温は15度。みなべ町の夏の水温は、今や表面で30度近い。生息深度でも高くなっているとみられる。冬も15度を下回らなくなった。蛍光色は「体内の『緑色蛍光たんぱく質』が、深い場所にもわずかに届く紫外線に反応し黄色く見せているから」という。
蛍光たんぱく質は、ホタルなどの「生物発光」と違い、特定の波長の光を吸収し別の波長に変換して放出する仕組み。発見した下村脩・米ボストン大名誉教授(18年死去)は、この研究でノーベル化学賞を受賞した。
サンゴの輝きも、緑色蛍光たんぱく質による。人にサンゴの蛍光は見えないが、暗闇で紫外線や青色光を照射すれば可視化できる。
また、基礎生物学研究所と東北大などは「サンゴは、体内に共生させる褐虫藻(かっちゅうそう)を呼び寄せるため光っている」との説を19年に発表した。
「クジャクケヤリ」は一見、黄褐色の目立たない海藻だ。ところがライトなどで通常光を当てると、クジャクの羽のように緑色に輝いて見える。神戸大内海域環境教育研究センターの川井浩史・特命教授(69)が23年に命名した。「クジャクケヤリの色は『構造色』と呼ばれ、微細な構造に特定の波長の光が反射することで色づいて見えます。見る角度や光の当たり方によって変わる」と説明。シャボン玉やタマムシと同じ。クジャクケヤリでは、先端の「頂毛」内の15マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1ミリ)程度の球状の小胞「イリデッセントボディー」に、微細な顆粒(かりゅう)が規則的に配置することで構造色を生み出すという。外敵に対するカムフラージュか警告が目的ではないか、と教授は推察している。
まか不思議な話ばかりだが、暗い海には妖しく美しい魅力があふれている。【三村政司】
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