島根県で開発されたブドウのオリジナル品種「神紅(しんく)」。本格出荷から2024年で3年目を迎えたものの、まだまだ生産量は少なく、知名度不足は否めない状況だ。こうした中、県内最大生産地の邑南町(おおなんちょう)の生産者は、「全国で戦えるブドウ」に育て上げようと、精力的に活動している。

キルフェボンで大人気の神紅タルト

贅沢に約50粒のブドウを使ったタルト!まるで赤い宝石をのせているようだ。このブドウは、全て島根県が開発したオリジナル品種「神紅」。

この記事の画像(10枚)

「神紅」を惜しげもなく使ったこのタルトは、東京や大阪などで11店舗を展開している人気のフルーツタルト専門店「キルフェボン」が8月から販売を始めている。全ての店舗で、ほぼ毎日売り切れるほど人気を集めているという。

キルフェボン広報チーム・春山麻衣さん:
紅いブドウはたくさんあるが、瑞々しくてパリッとした果皮や甘くて大粒で食べ応えのある肉厚の果実が魅力的だと思う。特にこだわったのは、色が良いので神紅をタルト一面に飾ったところ。

有名タルト店の目に留まった「神紅」。島根県内では、栽培面積の約6割を占める邑南町が一大産地だ。島根県が、新たなブランド化を目指して、紅色が特徴の「ベニバラード」と、種が無く皮が薄い「シャインマスカット」をかけ合わせて開発したオリジナル品種だ。現在、邑南町内では14戸の農家が栽培していて、この秋に本格出荷から3年目にして、初めて出荷式が行われた。

ブドウの戦国時代を生き抜くために

生産者の一人、辻聡志さん。神紅は数あるブドウの品種の中でもまだまだ「新人」であり、大きな課題を感じている。

神紅の知名度について、神紅の生産者である辻聡志さんは「まだまだ足りていない」と話し「知られていないから、まずは手に取らないと言われていて、シャインマスカットとか、有名なブドウの方が間違いないと言われていて悔しい」と心情を吐露した。

毎年のように、全国各地でブドウの新品種が発表されていて、近年は言うなれば「ブドウの戦国時代」。全国を見渡せば「神紅」のライバルはたくさん存在する。

例えば、ブドウの生産量が全国でトップクラスの長野県で生み出された「クイーンルージュ」は、出荷7年目の2024年に約400トンの出荷が見込まれている。これに対し、「神紅」の2024年の出荷見込みは県全体で約15.5トン。有名な品種の足元にも及んでいない。

そこで辻さんは、生産量を増やすために自ら販路拡大に乗り出した。「キルフェボン」へも辻さんが直接売り込んだ。

規格外など余すことなく神紅を活用

販路拡大活動の甲斐もあり、生産量は着実に増加しているものの、一方で規格外品の処理が新たな課題となっている。

神紅の生産者・辻聡志さん:
規格外の神紅です。パン屋や邑南町のお土産として考えています。

辻さんは、これも販路拡大に生かそうと、地元のベーカリーなどで使ってもらえるように売り込む予定だ。また規格外品を「干しブドウ」に加工するなどして、活用策を模索している。

そして、実際に加工した「神紅の干しブドウ」を地元に人に試食してもらうと、「干しイモのような香ばしさと味わいがある」とか、「おいしくて、ブドウの色が残っているので、ケーキに入れて使えそう」といった感想があり、反応は上々。手ごたえを感じていた。

辻さんは「毎年、いろんな紅色のブドウ出てきていますので、神紅を負けないように少しハードルを上げて、これからも盛り上げていきたい」と意気込む。

「ブドウの戦国時代」を生き抜くため。
「神紅」の知名度アップに向けて地道ながらもそのおいしさを追求する戦いは続く。

(TSKさんいん中央テレビ)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。