県内で活躍する人を紹介する佐賀人十色。シニア向けの美術展で県知事賞に輝いた94歳の女性を紹介します。自らの“生きる源”という日本画を40年以上描き続けています。
【川原英子(ふさこ)さん】「どうも良くない、またやり過ぎたら今度ぼさーっとなった、また何回もそれこそ試行錯誤」
キャンバスに丁寧に色を重ねるのは今年の3月に94歳を迎えた川原英子さんです。
【川原英子さん】「ものすごく時間かかりますよ、だからこれ1枚でも半年近く」
川原さんが専門にする日本画は、岩絵具(いわえのぐ)という粉などから自分で絵の具を作ることに始まり、色を何度も塗り重ねる必要があるなど手間がかかるのが特徴です。
【川原英子さん】「もう何回でも塗り直しよ、いろんな色が、1色じゃないのよ(日本画は)ギラギラしないというか、優しい、できあがりが優しい感じがする」
時間をかけたからこそ出る独特の風合いが魅力の日本画。川原さんがその魅力に気付いたのはおよそ40年前のことでした。
【川原英子さん】「“私も先生のような絵を習ってみたいです”って言ったらね、“そうじゃあ来なさい“って」
鹿島市出身の日本画家、岩永京吉(きょうきち)さんの個展を見た川原さんは日本画にひとめぼれ。当時、岩永さんが開いていた日本画の教室に通い始めます。
【川原英子さん】「これね(昭和)59年に県展でね、初入選したのよ」
“敷居が高い”とされる日本画ですが、なんと始めてからわずか1年で県の美術展に入選。思い出のスケッチは今も手元にあります。
【川原英子さん】「民家の前で2日間スケッチをしたの通い行ったり来たりするごと、そしてこれになしちゃってね面白くてね」
それ以来日本画に魅了され、毎年のように作品を出品してきました。
【川原英子さん】「31回って書いてない?31回目やね入選ね、これらが賞をもらってるの」
何度も賞に輝いた川原さんですが、“名誉”より審査員からの“言葉”が嬉しいと話します。
【川原英子さん】「こういう先生方の見方があったんだなと思ってね、嬉しかったね」
絵に熱中できた裏には夫の賢次さんの“支え”もあったそうです。
【川原英子さん】「今度どこ描こうか、どこへ行こうかっていうときに必ずついてくれました、どこ行ってもついてきました。病気した時にも私お礼言ったんよ、そして2人で泣いたんよ、お父さんのおかげで私こがんしてこられたねって、楽しいお絵描きばかりさせてもろうて」
9年前に賢次さんが亡くなり一人暮らしの川原さんですが、絵と向き合うことが今の川原さんの支えです。
【川原英子さん】「本当に(生きる)源ね、楽しいです。だから一人でも過ごせるのね」
川原さんは自宅でひとり絵と向き合うだけでなく、月に一度、地元の公民館で開かれる絵画同好会に顔を出します。
【川原英子さん】「必ず何かを持って描いてね、そしてご指導を受ける」
絵に取り組む姿勢に周りの人も舌を巻きます。
【絵画同好会のメンバー】「負けないように頑張らんばなかな、って思いますね」【絵の指導をする林良二さん】「まだスケッチに出かけられるんですよ、この年で。すごいでしょ」
【川原英子さん】「1人で迷うよりも先生のご指導を受けるとあーってまた方向性が決まってきてまた楽しみが増える。どのように(児童に)描かせたらいいかといったようなそういう研究ね、子供対象の勉強ばかりね」
かつて小学校で先生をしていた川原さんですが、道のりは決して平坦ではありませんでした。
【川原英子さん】「親から押し切られてね、女学校に行きました」
親の反対にあったため教員を養成する師範学校への進学を断念し、昭和18年1943年に武雄の女学校に入学。しかし日本はその頃太平洋戦争の真っただ中でした。
【川原英子さん】「お勉強ではなく注水訓練をさせられていましたね、その途中に終戦になりまして泣いたことを覚えています」
終戦から3年後に卒業を迎えた川原さんは先生になることを諦めていませんでした。
【川原英子さん】「学校に出ている友達がいたので、そこの校長先生に直談判で」
何とか先生の道が開けますが、周りは大学などで専門的な教育を受けた人ばかり。学びの日々が続きます。
【川原英子さん】「夏休みには廊下に机を出してバケツに水汲んで脚が脚気のような感じでだるいから足を突っ込んだりして(勉強した)」
作品の中にはその頃見ていた風景を題材にしたものも。
【川原英子さん】「有明海の近くの七浦小学校でした、小学校の近くにこれがありました、もう海をね見て育ってないから非常に珍しかった」
38年間の教師生活を“児童のために学び続けた”と振り返る川原さん。今はその情熱を絵に注ぎます。
【川原英子さん】「絵が私を裏切らない、自分がやっただけが残るからね、“命の源”と思って頑張ってます」
川原さんは現在今年の県の美術展に出品する作品を制作中ということです。
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