食欲の秋。お刺身もおいしい季節だ。そこで注意したいのが、サバなどの魚に寄生するアニサキスによる食中毒「アニサキス症」だ。
この記事の画像(5枚)経験した人は、「もう二度となりたくない」と言うほどの苦しみだというが、どのような症状なのだろうか。実際にかかった場合どうすればいいのだろうか。
昭和大学医学部准教授の鈴木慎太郎さんに症状と実際になった時の対処法を聞いた。
七転八倒する痛み
「アニサキス症は、サバ、タラ、サンマなどの魚に寄生するアニサキスという寄生虫が、人間の消化管の粘膜に突き刺さることで起こる病気です。『突き刺さる』といっても、噛みつくのではなく、モグラやトンネルの掘削機のように消化管の粘膜に潜り込んでいくイメージです」
アニサキスが消化管に刺さると、激しい腹痛、吐き気、下痢などが起こるという。
「特にお腹の痛みは激烈で、七転八倒し、病院に駆け込む人も多いです」
アニサキス症になった人は、その痛みについて「これまでに体験したことがないくらいみぞ落ちのあたりが押されているような激痛だった」などと表現している。
胃に刺さる場合と腸に刺さる場合があり、それぞれ「胃アニサキス症」「腸アニサキス症」と呼ぶ。
食べた直後に発症することもあれば、数日後に発症することもあるとのこと。
「特に腸のアニサキスの場合は半日や数日遅れて発症することもあります。やはり胃の場合と同様に激しい痛みがある場合がありますが、原因がわからないまま食あたりと診断され、自然に治ってしまうこともあります。時間が経つと寄生虫は死んで脱落するため、内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)をしても多くは見つからないからです」
ワサビや醤油では死なない
痛みに七転八倒するアニサキス症は怖いが、それでも刺身はおいしくいただきたい。そんなニーズからか、ネットでは、「ワサビや醤油と一緒に食べるとアニサキスは死ぬ」「よく噛んで食べる」などと検索されている。このような説は事実なのだろうか?
「ワサビと醤油では、死滅させる効果はほとんどありません。よく噛んで食べるという噂については、確かにピンポイントで寄生虫を噛めば死にますが、それは何百メートルも離れた的を射抜くくらいの確率だと思うので、ほぼ無理でしょう。徹底的に加熱するか業務用冷蔵庫で凍らせるのが安全です」
なお厚労省は、70℃以上で加熱する(60℃台で1分間加熱でも可)か、-20℃で24時間以上冷凍することを推奨している。
「救急受診もやむなし」
では、アニサキス症の疑いがある場合はどうすればいいのだろうか。鈴木さんは、次のように話す。
「胃や腸に症状があれば、胃腸科や消化器内科へ。夜間や休日、夜中であれば救急外来への受診もやむを得ないでしょう」
鈴木さんによれば、緊急で検査が実施可能な病院では、胃カメラで検査を行い、アニサキスが見つかればそのまま取り除く。ただし、胃や十二指腸よりも下部の腸壁にもぐり込んだ場合は緊急の胃カメラの検査では届かず、取り除けない。その場合、アニサキスが死んで抜け落ちるまで1週間程度待つ。その間は鎮痛剤や胃腸薬で症状を抑えるという。
しかしそれだと、アニサキスが抜け落ちるまでは相当痛そうだ。それに、命にかかわることはないのだろうか。
「腸に穴が開いて緊急手術で生命をとりとめた事例は過去に報告されているのであなどれません。しかしアニサキス症の症状は激しい痛みを伴うこともある割には、ほとんどの場合は自然に治ってしまいます。それに私が知る限り、アニサキス症で命を落とした方はいません」
そう聞くと少しほっとする。ただし、鈴木さんによれば、アニサキスによる健康被害には、食中毒であるアニサキス症以外にも「アニサキスアレルギー」というものがあるという。後半では、鈴木さんにアニサキスアレルギーについて詳しく聞いていく。
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【鈴木 慎太郎】
昭和大学医学部医学教育学講座、医学部内科学講座呼吸器・アレルギー内科学部門准教授。医学博士。日本アレルギー学会専門医・指導医。専門は食物アレルギー、アニサキスアレルギー、アナフィラキシー、動物・昆虫アレルギー、薬物アレルギー・過敏症、気管支喘息など。重症のアナフィラキシーを生じた患者や、アナフィラキシーを繰り返す患者、アニサキスアレルギーの患者の診療を行う。中学生~高校生・思春期の食物アレルギー、ぜん息の患者も受け入れている。
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