焼き上がったばかりのカステーラ。熟練の従業員の手で型から手際良く外されていく=岐阜県恵那市岩村町の松浦軒本店で

 織田信長の叔母が治めた「女城主の里」として知られ、NHK連続テレビ小説「半分、青い。」(2018年)の舞台にもなった岐阜県恵那市岩村町。歴史と文化の薫り漂う城下町の本通り沿いに、その店はあった。  創業1796(寛政8)年の松浦軒本店。ポルトガル伝来の「カステーラ」を、美濃の山あいで220年余にわたって作り続ける。長崎で医学や蘭学(らんがく)を学んだ岩村藩医が、帰藩後に病人食、滋養食として、店を創業して間もない松浦家に製法を伝授したと伝わる。  店主の松浦陽平さん(40)の案内で売り場横の製造場へ入ると、香ばしい匂いに包まれた。材料は小麦粉、卵、砂糖に蜂蜜少々と、いたってシンプル。これらを内径80センチほどの石臼に据えた容器に入れ、気泡がきめ細かくなるまでゆっくり攪拌(かくはん)。出来上がった生地を金属の型「小釜」に流し込む。一度に24本をオーブンに入れ、15分ほど熱すると焼き上がる。  表面はこんがり、いい具合に焼き色がつき、浅く「MATSURA」の焼き印も。いただくと、さっくりとした食感で、口中で湿るにつれて素材の味と甘さが舌に染みてくる。水あめを加え、しっとりさせた「長崎カステラ」より、欧州の伝統的な焼き菓子「パン・デ・ロー」に近いという。  陽平さんは昨年10月、父昭吾さん(79)から8代目を受け継いだ。カステーラの製法と味が続いてきた理由について「山間にあり、明治以降、環境の変化や激しい競争にさらされずに済んだからでは」と推測。昭吾さんは「素朴な味だが、『変えるなよ』が代々の言い伝えです」と話す。  ドラマの放映中は観光客が大挙して訪れた。その後のコロナ禍で団体客を中心に客足が落ち込んだが、今は回復の途上にある。カステーラの製造数も一時に比べて減らしてはいるが、陽平さんはきっぱり言った。「自分の代として次につながる商品を何か考えなくてはいけないが、看板商品は変えない。細く長くでいきます」  文・写真 有賀博幸

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 松浦軒本店のカステーラは、1本が長さ18センチ、幅6.5センチ、高さ4.5センチ、重さ200グラムほどで530円。セロハンの包装に筆記体で「Castella」と記されている=写真。平日は300本、週末には500本を製造、地元のほか三越や高島屋など大都市圏の百貨店に納め、ネットでも販売する。このほか栗きんとん、栗ようかんなど20種余を扱う。岩村町内では、同店の分家で1882(明治15)年創業の「松浦軒本舗」でもカステーラを製造販売。別の「かめや菓子舗」でも、「かすていら」の名で販売している。


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