大勢の人たちに見送られ、武雄温泉駅を発車する西九州新幹線「かもめ」=佐賀県武雄市で2022年9月23日午前7時4分(代表撮影)
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 九州新幹線長崎ルート(西九州新幹線)が武雄温泉(佐賀県武雄市)―長崎(長崎市)間で開業して23日で2年となった。利用は好調だが、佐賀県内の未着工区間(新鳥栖―武雄温泉間)の整備については議論が進展しない。国が推す佐賀駅(佐賀市)を通るルートか、佐賀県側が「一考に値する」と評価する佐賀空港(同)周辺を通るルートかで隔たりは大きく、県側が懸念を示してきた財政負担の問題も解決の糸口を見いだせない。全面開通のメドは一向に立たない。

 「整備新幹線は事業費の大幅な上振れが常態化しており、それを前提に考える必要がある。拙速に議論を進めるような簡単なものではない」。佐賀県議会9月定例会が開会した11日、提出議案の説明に立った山口祥義(よしのり)知事は未着工区間の整備について、近年の物価上昇などにも触れ、改めて慎重な姿勢を示した。

 博多(福岡市)発着の在来線特急と武雄温泉駅で乗り換える「リレー方式」で2022年9月に部分開業した長崎ルート。この1年、未着工区間のルートを巡って議論が活発化する局面もあったが、一致点は見いだせないままだ。

北回りルートとアセスルート
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 ルートを巡っては、国土交通省が21年11月に新幹線規格(フル規格)で整備する場合の3案について試算した概算建設費などを提示。佐賀駅を通る「アセスルート」は6200億円▽佐賀県北部の長崎自動車道沿いを通る「北回りルート」は5700億~6200億円▽佐賀空港を通る「南回りルート」は1兆1300億円――で、アセスルートが最も投資効果が高い「ベストな選択肢」とした。

 「フル規格を議論するのであれば、佐賀空港の活用を含めて県や九州全体の将来展望にどうつながるか、新たな発想での議論が必要だ」。これまでフル規格での整備に難色を示してきた山口知事が態度を軟化させたのは、部分開業から1年がたった23年9月の県議会9月定例会。答弁で、南回りルートについて「一考に値する」と踏み込んだ。

佐賀県議会の一般質問で九州新幹線長崎ルートについて答弁する山口祥義知事(手前)=県議会で2023年9月20日午前10時23分、五十嵐隆浩撮影
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 山口知事の発言が呼び水となり、ルートを巡る議論は活発に。政権与党内ではその後、佐賀駅と佐賀空港の間を通す折衷案が浮上。福岡県の経済団体からは、佐賀空港から久留米駅(福岡県久留米市)に通すルートでの整備を求める動きも出た。

 だが、国交省は南回りルートについて、「現実的な選択肢になり得ない」としてきた。軟弱地盤のある有明海沿岸を通るためだ。山口知事の発言後も国交省は「佐賀駅ルートが最適」との立場を崩さず、議論は平行線をたどった。ある与党関係者は「佐賀県が本気で南回りルートに取り組もうとしているようには思えない」と冷ややかに見る。

 国との協議が暗礁に乗り上げる中、佐賀県が23年末から強調し始めたのは「新たな地元合意の形成」だ。

 福岡、佐賀、長崎各県とJR九州などでつくる「九州新幹線建設促進連絡協議会」は1992年、福岡市―武雄市間は在来線を活用し、武雄市―長崎市間は新線を建設することで合意した。国はその後、在来線と新幹線双方を走れる「フリーゲージトレイン」の導入を目指したが、開発が難航して断念。佐賀県内の区間について、在来線の活用からフル規格での整備推進に方針転換した。

 そうした経緯から、佐賀県は「92年の合意と違うことをするのであれば新たな地元合意が必要だ」と訴える。県幹部はその意図について「国交省と協議を重ねても何の進展もない。原点に戻り、少しでもまともな議論をするための『助け舟』だ」とし、「何もしなければ『佐賀のせいで止まっている』と言われる」とも語る。

九州新幹線長崎ルートを巡る長崎県とJR九州との意見交換後に取材に応じる佐賀県の山口祥義知事=福岡市のJR九州本社ビルで2024年5月13日午後6時33分、五十嵐隆浩撮影
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 こうして5月に実現したのが佐賀県と長崎県、JR九州の地元3者トップによる意見交換の場。だが、議論はかみ合わなかった。佐賀県はルートや財政負担について地元での議論を持ちかけたが、長崎県とJR九州は「国を交えた協議が必要だ」と指摘した。

 佐賀県側にとってネックになっているのは財政負担の問題だ。

 整備新幹線の建設費は法令に基づき、JRが国側に支払う施設使用料(貸付料)を除いた額の3分の2を国が、3分の1を距離に応じて地元自治体が負担する。建設費の上振れなどを加味した県の試算では、国が推す佐賀駅ルートでの県の実質負担は1400億円超。県は、既に開業した武雄温泉―長崎間の建設費負担額を加えると、佐賀県の負担は長崎県の2倍以上になるとし、佐賀県幹部は「長崎県側が本当にやりたいなら財源スキームの見直しについても『一緒にできることはないか』と提案があるはずだ」とけん制する。

 佐賀県側には、佐賀駅を通る新幹線ができれば博多―佐賀間の在来線特急などが減らされ、不便になるとの懸念も根強く、県はこうした問題を「セットで議論すべきだ」と訴える。

 新幹線整備に詳しい大阪産業大の波床(はとこ)正敏教授は「距離に応じた地元負担を定めた現行スキームの根幹を変えるのはこれまで負担した自治体との兼ね合いで難しいだろう」とする一方で、「建設費の高騰は建設時期によって不公平が出ないよう平準化すべきだ。分岐部分などの複雑で高価な構造物は、国の負担にするというのもやり方の一つだ。そうした形でスキームを見直さないと議論は進まないだろう」と指摘する。

【五十嵐隆浩】

利用者は「確実に増えている」

対面リレー方式で特急(左)から長崎行きの新幹線に乗り換える乗客=武雄温泉駅で2024年9月20日午後2時58分、五十嵐隆浩撮影
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 JR九州によると、部分開業した九州新幹線長崎ルート(武雄温泉―長崎間)の利用は好調に推移している。2022年9月の開業から24年9月17日まで延べ約490万8000人が利用。1日平均利用者数は開業1年目の約6600人から2年目は約6900人と増えた。通勤・通学のために長崎ルートの定期券を使っている人は22年10月末時点で263人だったが、24年8月末時点で528人となっている。

 古宮洋二社長は20日の記者会見で「1日平均利用者は確実に増えていると感じる。定期券の利用者も2倍になった。乗っていただき、その良さが浸透して増えたのだと思う。新幹線の快適さや便利さを宣伝して、もっと多くの人に利用してもらえれば」と語った。【下原知広】

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