こうじの歴史や定義を説明する村井裕一郎社長=愛知県豊橋市で

 こうじ。それは、みそやしょうゆ、日本酒などの醸造食品に使われ、古くから日本の暮らしと密接に関わってきた。一方で、小林製薬(大阪市)のサプリメント問題をきっかけに、紅こうじが知れ渡るようになった。そもそも、こうじとは? 紅こうじとの違いとは?(奥川瑞己)  「米や麦、豆などの穀物にこうじ菌を生やして、醸造食品の原料として使われるもの」。室町時代から続く種こうじメーカー「糀屋三左衛門(こうじやさんざえもん)」(愛知県豊橋市)社長、村井裕一郎さん(44)が、こうじを説く。  その分類はさまざま。「米に生やせば米こうじ、麦なら麦こうじと分けられるし、みそやしょうゆなど用途における分け方もある」。煮てつぶした大豆にこうしたこうじを混ぜて発酵させると、みそになる。  一方、近年注目され、主に調味料として使われる塩こうじやタマネギこうじなどは一線を画すという。「こうじと他の食材を混ぜたもので、穀物に菌を生やすという従来のこうじの考え方とは異なる」  村井さんは1月、発酵の歴史や最新技術をまとめた「ビジネスエリートが知っている 教養としての発酵」(あさ出版)を出版した。それによると「発酵は人類が火を使う前から利用していた食べ物の加工法とも言われている」。奈良時代の「播磨国風土記(はりまのくにふどき)」には、神様にお供えしたご飯に雨でカビが生えたので、お酒を造って献上して宴会した-との記述があり、このカビがこうじ菌と考えられるという。  人類はなぜ、発酵食品を作ってきたのか。同著は、カロリーやタンパク質の摂取や消化をしやすくする栄養機能▽腸内の環境を整えるなどの生体調節機能▽元の食品とは異なる味わいにする嗜好(しこう)機能▽保存性を高める機能-の四つを挙げる。  一方、小林製薬の問題が明らかになった3月下旬から、村井さんの会社には「小林製薬の製品を使っているか」などの電話やメールが多い日で約20件も届いたという。  しかし、日本獣医(じゅうい)生命科学大の佐藤薫教授(農学)は、こうじ菌と紅こうじ菌は「学術的に別物」と強調。「日本で主に醸造に使うこうじ菌はアスペルギルス属。中国や沖縄で使われてきた紅こうじ菌はモナスカス属に分類され、違いは明確」と指摘する。  村井さんによると、アスペルギルス属も細分される。具体的には、主にしょうゆに使う「ソーヤ」や、焼酎や泡盛に使う「ルチエンシス」、カビ毒を出すことで知られ、日本の醸造食品に使われない「フラバス」などだ。  中でも日本醸造学会(東京)が「国菌」として定め、国内で醸造や食品に使われる代表的なこうじ菌は、カビ毒を生産しないことが遺伝子レベルで確認されているソーヤやルチエンシスなどに限られている。村井さんの会社でも紅こうじ菌は扱っておらず「主に企業が色素や着色料として用いてきた紅こうじとは、利用目的も異なる」と語る。  小林製薬の問題後、こうした解説を交流サイト(SNS)で発信してきた村井さん。「問題があったのは、培養時なのか、原料の調達時なのか、錠剤に成型する段階なのか。いろいろな可能性が考えられる。消費者は正確な情報を基に行動してほしい」と話す。  佐藤教授も「これまでずっと受け継がれた伝統的な発酵食品は問題はないと言っていい」とした上で、「そもそも紅こうじ自体が問題とされているわけではない。冷静に対応してほしい」と訴えている。


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