本格的な秋の訪れとともに例年増加するのが、クマによる人身被害と農作物を食べられる被害だ。クマとの遭遇や被害を防ぐためにどうすればいいのか。クマの生態を研究する東京農業大学の山崎晃司教授の話を交えて考える。

まずは、クマにとって「秋」はどういうシーズンにあたるのだろうか。

山崎教授は「通常は市街地や農作物がある場所にクマは出てこない。奥山にある秋田だと、ブナやミズナラなどを集中して食べる時期。そして体脂肪を増やす時期」と話す。

山崎教授によると、クマにとっての「秋」は、本来「栄養を蓄える季節」。つまり「山にいる時期」にあたる。

それにもかかわらず、9月11日には秋田市新屋の秋田カントリー倶楽部でクマが目撃された。

目撃したキャディーは「9月9日も栗を食べていた。私は同じクマだと思う。車を置いておけば来ないかと思って置いたらしいが、それでもクマは怖がらないで、何か手を上げて中をのぞいていた。怖い」と話した。

市街地での出没について山崎教授は、「2023年に母グマが駆除され、『孤児』となったクマが私たちの生活圏に定着している可能性がある」と指摘する。

お母さんからいろいろなことを学習しないまま独りで生活し、その結果、山奥にある食べ物のことを知らない状態で集落付近に執着して、2023年からずっと暮らしていた個体の可能性が強いのだという。

クマの目撃情報などを知らせる「クマダス」によると、秋田市新屋では9月に5件のクマの目撃情報が寄せられた。市は箱わなを設置し、9月13日に体長90センチの雄のクマ1頭を捕獲した。

山崎教授は「また集落周辺にクマが入ってこないように、今がチャンス」と話し、「環境整備を今のうちに進め、誘引物を置かない。場合によっては電気柵を設置するといったような、再びクマが人里に分布域が広がらないように、できるだけの努力をすることがこの秋求められる」と強調する。

2023年の秋田県内のクマによる人身被害は、9月に16人、10月には34人にも上った。被害が発生した場所は、住宅や店の敷地、市街地のバス停などで、まさに私たちの日常の生活圏が多くを占めた。

山崎教授は「クマは山の中だけにいる動物ではない」と認識を持つことが大切だと話している。

被害を防ぐために、改めて注意点を確認しよう。まずは「農作物の管理」。2023年に相次いでクマが出没した柿の木のある場所などは、早めに実を収穫し、放置しないようにしよう。

また、クマがどのような場所に出没しているかを知ることが重要だ。知るための有効な手段となるものの一つが「クマダス」だ。

山崎教授はクマダスについて、「情報の信頼性が高いものから低いものまで混じっているが、自分で判断する必要がある。第一歩として今後の管理にも役立てられるので、広域的なクマの情報を集めるシステムを立ち上げたことは、科学的なクマの管理の第一歩かなと思う」と話している。

県内では2023年に約2300頭のクマが捕獲された。山崎教授は、2024年は人身被害は減少するとみているが、「春から夏にかけての目撃や人身事故を考えると、地域差があるように思える」と話す。例えば、鹿角市はクマが出ていたが、北秋田市は2023年ほどは出ていない印象だという。

こうしたことから、山崎教授は「2023年のクマの捕獲の仕方や管理の仕方が、地域によって効果が違う可能性がある。そのため県全体で考えるのではなく、地域ごとに、去年の管理の仕方がどのように今年のクマの出没に影響を与えているかを、丁寧に見ていく必要がある」と指摘する。

2023年から2024年の初めにかけては、本来冬眠しているはずの時期にクマが相次いで目撃された。「例年は…」や「本来は…」は、もはやクマには通用しない可能性がある。「いつでも、どこでも、誰でもクマに遭遇する可能性がある」ということを心にとめて生活する必要がある。

※山崎晃司教授の「崎」は「たつさき」

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