“世界に1つだけ” 着物の日傘

大阪・生野区で傘工房を営む、時田さゆりさん(61)。

時田さんは明治から続く傘屋に嫁いだことがきっかけで、傘職人の道を歩み始めました。

2011年には傘の専門店をオープン。

ウエディングドレスの生地を使った「ウエディング傘」など、これまでにない傘を手がけてきました。

時田さんが特に力をいれているのが、使われなくなった着物をリメイクして作る日傘です。

時田さゆりさん
「着物は、小学生のころから習い始めた茶道で着る機会が多く、いつも身近に感じてきました。しかし、いまは着物を着る機会も減り、たんすに眠ったままのものも多いですよね。着物はすてきな色合いなので、そのよさを“違う形”で伝えることができたらなって。第2の人生として、着物を外に出して、また輝きを取り戻してほしい、その思いで着物の日傘を作らせていただいています」

“思い出”に寄り添う

今では年間100本以上、着物の日傘をつくるようになりました。

時田さんはお客さんから着物を預かるとき大切にしていることがあります。

それはその着物の持つ“歴史”や“思い出”に寄り添うこと。

時田さゆりさん
「はじめにお話しする時に、どなたのお着物ですかって聞いたり、お客さまからは
『これは母の形見なんです』とか話してもらったりします」

お客さんと相談しながら、柄やお気に入りの色など、その着物の“思い出”を傘のなかに取り込むようにデザインしていきます。

進む“着物離れ”

着物の需要はこの50年で大きく変わりました。

昭和40年代以降、生活の洋式化が進み、ふだん着として着物を着る機会は減っていましたが、平成の初頭までは、成人式や結婚式用に着物を購入する人たちが一定層いました。
しかし、バブル経済の崩壊とともに、着物への支出は急激に減少していきました。

そうしたなか、現在では使われなくなった着物を再利用し、洋服に作り直したり、インテリア装飾の一部にしたりする取り組みが広がっています。

大阪の百貨店で行われた「傘」の催しを訪れた人に聞いてみると…

大阪 池田市 60代女性
「(着物を日傘として使うのは)おもしろいなって思います」

大阪市 60代女性
「(家に着物は)たくさんあります、たんすの肥やしです。着物からバッグを作ったことはあります」

大好きだった母の形見

大阪・貝塚市の畠口亜矢子さん。

5年前に亡くなった母親、一枝さんの形見の着物を使って傘を作ってほしいと依頼しました。

「新しく作ったの」

ある日突然、一枝さんが着物を購入してきました。
ふだんは洋服しか着ていなかったため、畠口さんは驚きました。

しかし、一枝さんは着物を一度も着ることなく亡くなり、実家のたんすにしまわれたままに。

着物をどうしたらいいのか調べていたとき、時田さんに出会いました。

畠口亜矢子さん
「母が亡くなって、遺品に手をつけることが全くできなくて。それでも実家に帰るたびにたんすに眠りつづける母の着物がずっと気になっていて…。母が一度も着られなかった着物を切ってかたちを変えてもいいのだろうかと悩んだんですが、時田さんから『きっとお母さんは空から喜んで見てくれるはずです』と背中を押してもらって、前を向くことができたんです」

畠口さんの思いを胸に…

畠口さんから依頼を受けた時田さんは、日傘作りにとりかかりました。

まずは、着物の柄が一番よく見えるようハサミで生地を切り取ります。

そして、8本の骨組みにひと針、ひと針、丁寧に縫い付けていきます。

時田さゆりさん
「畠口さんとのお話しから、お母さんへの強い思いを受け止めました。優しかったお母さんへの気持ちが伝わるように願って日傘を作らせていただきました」

でき上がった日傘は…

依頼から4か月。

畠口さんが日傘を受け取りに来ました。

完成したのは濃い紫色の生地のなかに、白色の柄が際立つようにデザインされた2本です。

受け取った畠口さんは、

「なんか泣けてきた…」

と思わず漏らしました。

そして、日傘を開いて笑顔を見せました。

畠口亜矢子さん
「とても感動しました。たんすに眠っていた着物から、ここまで心を打たれるようなすばらしいものを作ってもらって本当に感謝しています。母はこの着物を着れなかったことを残念に思っていると思いますが、この日傘をさすことで、きっと喜んでくれると思います。空から見守ってくれている母に元気な姿を届けたいです」

着物に新たな命を

時田さんは今後も、着物に込められた“思い出”を受け継いでいけるような日傘を作り続けていくつもりです。

時田さゆりさん
「すごく喜んでいただいてよかったっていう思いでいっぱいです。眠っていた着物はよみがえるんだと、その気持ちがより多くの方に伝わればと思います」

(7月12日「ほっと関西」8月29日「おはよう日本」で放送)

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