「猫神さん」。そう呼ばれ、全国各地から猫が好きな人たちが集まる神社がある。徳島市八万町の「王子神社」。9月1日付で朝日新聞徳島総局に赴任した猫好きの記者も、さっそく足を運んでみた。

 神社は徳島県文化の森総合公園の入り口付近にある。63段の階段を上ると、高台の境内に6匹いる「神社猫」が迎えてくれた。猫たちはお守りなどの授与品が置かれた台に上ったり、拝殿の前に寝転んだりして、自由気ままに過ごしていた。

 平日の午後、参拝客は県外からの観光客が多かった。埼玉県加須市から家族4人で来た看護師、田辺直さん(36)は「21歳と6歳の猫を飼っているので、飼い猫の健康祈願も兼ねて来ました。猫が描かれた授与品が多くて、とてもいい雰囲気の神社ですね」。

 兵庫県明石市から夫婦で訪れたパート永井恵子さん(52)も「神社の猫が人になれていてかわいい。御利益がありそうに感じます」と笑顔を見せた。

 なぜ王子神社は「猫神さん」になったのか。神社によると、江戸時代の約340年前にさかのぼる。

 1680年ごろ、現在の阿南市にあった庄屋の妻・お松が無実の罪で捕らえられ、愛猫・お玉に「恨みを晴らしてほしい」と頼んだ後、処刑された。その後、お松に罪をかぶせた人々をお玉の霊が次々とたたって、不幸が続いたと伝えられている。「阿波の猫騒動」と呼ばれている伝説だ。

 そのため、阿波藩主・蜂須賀家の家老だった長谷川奉行家は、この地にお松とお玉の霊をまつったという。それが「願い事をかなえてくれる猫神さん」と言われ、「合格祈願や開運、良縁、商売繁盛などの神様」になったとされている。

 今では安産や縁結びといったお守り、月ごとに変わる御朱印などの授与品に猫が描かれ、拝殿や本殿には多くの猫の置物が並んでいる。さらに頭や手足などをなでると、願いがかなうと伝えられている黒色の猫の像「さすり猫」も本殿の裏に置かれている。

 神社は地元では「受験の神様」としても知られ、受験シーズンには多くの受験生らが訪れてきた。コロナ禍の2020年から、神社はインスタグラムで神社猫や御朱印などの情報発信を開始。猫好きの参拝客が、大阪や四国のほかの3県をはじめ、県外からも増えてきた。神社の広報担当者は「参拝客の3割ほどを県外の方々が占めているのではないか」とみている。

 X(旧ツイッター)でも、「自由奔放な猫様たちに癒やされました」「猫好きさんは、ぜひ行ってみてください」など、神社を訪れた人たちから多くの投稿が寄せられている。神社の担当者は「昔ながらの神社の伝統を継承しながら、これからも新しい取り組みをしていきたい」と話している。(森直由)

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