過疎高齢化や医師不足が深刻化している新潟県津南町の病院に、この春から県外出身の2人の若手医師が働き始めた。2人は週3日医師として働く傍ら、週の半分は東京などでコンサル業の仕事もしている。なぜ2人は県外から縁もゆかりもない新潟の地方で働くことを決めたのか…その背景には、医師不足を解消しようと県が導入した臨床研修医の育成プログラムがあった。「多くの患者を診ることができ、院内の変革もできる点でやりがいがある」と話す2人の若手医師の思いに迫った。

人口8500人の町で医師生活スタート

長野県との県境にある新潟県津南町。人口約8500人の町にある唯一の病院が、町立津南病院だ。

この病院で4月から非常勤の医師として働いている2人の若手医師がいる。岐阜県出身で大阪大学を卒業した木村真依さん(27)と、川崎市出身で東京医科歯科大学を卒業した宮城禎弥さん(27)だ。

宮城禎弥さん(左)/木村真依さん(右)
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この日の午前中は木村さんが外来診療と病棟業務を、宮城さんは病棟業務と救急外来を担当していた。

外来患者や入院患者など、一日で多くの患者を診て回る木村さんは「患者数を見るという点で病院に貢献出来ているかな」と話す。

しかし、なぜ県外出身の2人が過疎高齢化の進む津南町で医師としてのスタートを切ったのか?その背景には、研修医時代の経験があった。

なぜ都会から新潟に?勤務先に新潟を選んだワケ

2020年に公表された医師の偏在指数が全国で最下位となるなど、医師の確保が課題となっている新潟。

こうした中、県は医師の卵とも言える「臨床研修医」への対策を強化。2022年度から研修医が病院で働きながら海外の大学の学位を取得できる事業を開始したほか、県内に就職した研修医が、研修に加えてマネジメント力などを学ぶことができる「イノベーター育成臨床研修コース」を全国で初めて導入した。

このイノベーター育成臨床研修コースに応募し、1期生として活動していたのが、宮城さんと木村さんだったのだ。

イノベーター育成臨床研修コース1期生

県の育成プログラムがあることを知って、新潟での研修を決めた木村さんだったが、新潟を訪れたことはそれまで1度もなく、「周りからも全然理解されなかった」と明かす。

それでも、研修先に選んだ魚沼基幹病院では「医師不足であるが故に、ものすごく歓迎してくれて、丁寧に指導してくださり、この土地であればすごく手厚い研修が受けられるのではないかと思った」と笑って振り返る。

一方、川崎市出身の宮城さんは、自身が通う東京医科歯科大学病院での研修と悩んだというが、「6年通った大学にまた通うよりも新たな経験がしたい」と、新潟での研修医生活を選んだという。

常勤医不足・高齢化が深刻…

研修医として働く傍ら、イノベーター育成臨床研修コースでビジネスや病院経営についての学びを深めていた2人。そこで、医師不足の問題解決に取り組みたいと考え、勤務先に選んだのが、常勤医の不足、そして医師の高齢化が大きな課題となっている津南病院だった。

津南病院

宮城さんは「問題について主体的に取り組むことで自分事として考えられるようになったし、実際にいま津南病院で働いているのも新潟の医師不足問題に関してちょっとでも力になりたいという部分が強い」と話す。

宮城禎弥さん

高齢化の進む町でかかりつけ医療機関としての役割を果たす一方で、町の財政も厳しく、医師の確保に加えて経営面でも岐路に立っていた津南病院。

4月から2人が勤務したことで、病床の稼働率は去年に比べて1割上がったと林裕作院長は話す。

津南病院 林裕作 院長

「2人が来てから病院の雰囲気ががらっと変わり、他の病院のスタッフ、看護師や検査技師なども若い先生が来てくれたということで、すごく病院が活気づいているし、今は満床に近い状況になっている。本当に若い力は絶大だなと感じている」

県が研修医育成プログラムを導入してから、県内の臨床研修医は2年連続で増加。特に県外の大学出身者が増え、2023年度は過去最多の161人に。育成プログラム導入前の2020年度に比べると、約60人増加した。

しかし、研修後に県外の病院に行く医師も多く、県内の病院に留まってもらえるかが今後の課題だという。

週の半分は東京などでコンサル業

こうした中で、新たな働き方に挑戦しているのが、木村さんと宮城さんだ。

月曜日から水曜日までを宮城さんが、水曜日から金曜日を木村さんが津南病院で働く事で、常勤医1人分の役割を担っている。

木村真依さん

病院勤務はそれぞれ週3日。そのほかの日は、2人とも東京などで企業や病院経営のコンサルタントとして働いている。

ダブルワークを選んだ理由について、木村さんは「医者としてすごく成長することが大事だなと思うと同時に、赤字であったり、研修医確保がうまくいっていなかったり、病院も色んな問題を抱えている中、マネジメントとか経営が非常に気になる。いろんなことが気になった時に全部解決できるような人間になりたいなと思った」と話す。

医療現場が抱える問題を根本的に解決したいと考える2人は、研修医育成プログラムで学んだ知識や、コンサルとしてのスキルを活かし、津南病院の経営に関する会議でも積極的に議論に参加している。

ダブルワークの医師を採用するのは、津南病院にとっても初めての試みだ。入院患者を2人で受け持つことで、引き継ぎや治療方針を共有することに大変さはあるものの、それ以上にメリットが大きいと林院長は話す。

「へき地の病院が若手医師を確保することは大変困難。ダブルワークで都会の病院とへき地の病院それぞれで勤務することは、若手医師・へき地の病院双方にとってメリットがある。若い2人に今の医療を津南病院に吹き込んでほしいし、病院の活性化には若い力が大事だと思っている。今後も若手医師が来やすい工夫が出来れば」

“医師不足”の新潟から新たな風を

「若手医師でありながら、多くの患者を診ることができ、院内の変革ができるという点で、ものすごく病院に貢献しているという感覚があってやりがいがある」と話す木村さんが見据える将来像は…

「今の地域に求められている医療ってなんだろうということを考え続ける。そういう医者が増え続けるべきだと私は思うので、そういう人を増やしていけるような人間になりたい」

木村真依さん

一方の宮城さんは、これからも新潟の医療に関わっていきたいと話す。

「医者としての自分が必要とされるのであれば、医者としての働き方も続けたいと思うし、反面、5年以内にはビジネスの方でもしっかりとした立場を築ければ。東京・新潟の二重生活がずっと続くのかもしれないが、どこで働くかにこだわらずに、自分が何をその時にしたいのか、誰に求められているのかを考えてこれから仕事をしていきたい」

宮城禎弥さん

医師とコンサルという二足のわらじを履く若い力が、地域医療の課題解決へ新たな風を吹き込んでいる。

(NST新潟総合テレビ)

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